軽油価格は2026年6月時点で全国平均159.0円/L。過去5年で30円超上昇し、運送会社の燃料費負担は年間150万円以上増加した。
主要データ
- 全国平均軽油価格:159.0円/L(2026年6月4日時点、資源エネルギー庁調べ)
- 5年間の価格上昇幅:30.8円/L(2021年6月比、資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」)
- 10台規模事業者の年間燃料費増加額:約154万円(年間走行距離10万km/台、燃費5km/Lで試算)
- 燃料費の経営コスト比率:18.2%(全日本トラック協会「経営分析報告書」令和4年度、一般貨物自動車運送事業)
軽油価格の現状:2026年6月は全国平均159.0円/L
2026年6月4日時点の軽油価格は全国平均で159.0円/Lとなり、前週比で0.2円の上昇を記録した。資源エネルギー庁が毎週公表する「給油所小売価格調査」によれば、この水準は過去3年間の平均値を約8円上回る。ただし、給油所や地域により価格差は大きく、関東地方では161円台、東北地方では156円台と、最大5円程度のばらつきがある。
この価格水準は中小運送会社にとって無視できない負担だ。10台規模の事業者が年間10万km/台を走行し、平均燃費5km/Lで運行した場合、1台あたり年間2万Lの軽油を消費する。159円/Lで計算すると年間318万円、10台で3,180万円の燃料費になる。5年前の2021年6月時点の全国平均128.2円/Lと比較すると、30.8円の上昇幅は10台で年間154万円の追加コスト増に直結する。
燃料費は運送会社の経営コスト全体の中でも大きな比率を占める。全日本トラック協会の「経営分析報告書」(令和4年度)によれば、一般貨物自動車運送事業における燃料費の売上高比率は18.2%に達した。この数値は人件費(48.7%)に次ぐ第二位の費目であり、価格変動が経営を直撃する構造になっている。国土交通省「自動車輸送統計年報」(令和5年度版)によれば、営業用普通トラック1台あたりの年間走行キロは平均約4.8万kmで、事業用車両全体の燃料消費量は年間約500万kLに達する。
過去10年の軽油価格推移:2016年から60円以上の上昇
軽油価格は2016年以降、長期的な上昇トレンドにある。資源エネルギー庁の「給油所小売価格調査」から年度平均値を抽出し、時系列で整理すると次のようになる。
年度 | 全国平均(円/L) | 前年度比(円) | 備考 |
|---|---|---|---|
2016年度 | 98.4 | - | 原油安の底値圏 |
2017年度 | 111.2 | +12.8 | 原油価格回復局面 |
2018年度 | 125.6 | +14.4 | 中東情勢緊迫化 |
2019年度 | 121.8 | -3.8 | コロナ前の調整局面 |
2020年度 | 108.3 | -13.5 | コロナ禍で需要急減 |
2021年度 | 127.4 | +19.1 | 経済再開で急騰 |
2022年度 | 148.9 | +21.5 | ロシア情勢影響 |
2023年度 | 151.2 | +2.3 | 高止まり継続 |
2024年度 | 156.7 | +5.5 | 中東情勢・円安影響 |
2025年度 | 158.3 | +1.6 | 緩やかな上昇継続 |
2016年度の98.4円/Lから2025年度の158.3円/Lまで、10年間で59.9円の上昇となった。特に2021年度以降の上昇ペースが速く、3年間で30.9円上がった。この期間は世界的なエネルギー価格高騰、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢の緊迫化、そして日本の円安進行が重なり、輸入コストが跳ね上がったためだ。
2020年度の一時的な下落はコロナ禍による世界的な需要減少が原因だが、翌2021年度には経済再開に伴い急反発した。現場では2021年後半から「軽油が週単位で上がる」という実感があった。東名高速沿いの給油所では、月曜に入れた価格と金曜の価格が3円違うこともあり、運行計画を立てる際の燃料費見積もりが週単位でズレる状況が続いた。
地域別価格差:最大10円の開きが常態化
資源エネルギー庁の調査では、都道府県別の価格も公表されている。2026年6月時点のデータを見ると、最高値は東京都の163.8円/L、最安値は宮崎県の154.2円/Lで、9.6円の開きがある。これは物流拠点の配置や給油戦略に影響を与える水準だ。
関東地方は首都圏の需要集中と地価の高さから給油所の価格が高めに設定される傾向がある。一方、九州南部や東北の一部では地方の価格競争により相対的に安い。10台規模の運送会社が関東圏に拠点を置き、年間20万Lを消費する場合、宮崎県並みの価格で給油できれば年間約192万円のコスト差が生じる計算になる。ただし、実際には配送エリアや取引先の都合で拠点を自由に選べない現実がある。資源エネルギー庁「石油製品価格調査」では毎週月曜日に全国約2,000ヶ所の給油所を対象に価格調査を実施しており、都道府県別・地域ブロック別の詳細な価格推移データが公開されている。
価格上昇の背景要因:原油・為替・税制の三重構造
軽油価格の変動要因は複雑だが、中小運送会社が押さえるべき主要因は次の三つだ。
原油価格の国際市場動向
軽油は原油を精製して得られるため、国際原油価格(WTI原油、ドバイ原油等)の変動が直結する。経済産業省の資源エネルギー庁「エネルギー白書」(令和5年版)によれば、2022年のロシア・ウクライナ情勢を受け、原油価格は一時1バレル120ドルを超えた。2023年以降はやや落ち着いたものの、中東情勢の不安定化により70〜90ドルのレンジで高止まりしている。
原油価格の上昇は製油所の仕入れコスト増に直結し、数週間のタイムラグを経て給油所の店頭価格に反映される。現場では「ニュースで原油が上がったら、2週間後には軽油が上がる」という経験則が共有されている。
為替レート:円安が輸入コストを押し上げる
原油は米ドル建てで取引されるため、円安が進むと同じバレル数でも円換算の輸入コストが増える。2022年以降、日本は歴史的な円安局面に入り、1ドル150円台まで下落した。財務省の「貿易統計」によれば、2022年度の原油輸入額は前年度比で約40%増加し、その大半は為替要因だった。
2026年6月時点でも1ドル140円台で推移しており、2020年の1ドル110円前後と比べれば27%程度の円安水準にある。この差は軽油価格に10〜15円程度上乗せされていると試算される。
軽油引取税と本体価格の内訳
軽油の店頭価格には「本体価格」と「軽油引取税」が含まれる。軽油引取税は1Lあたり32.1円の定額税で、地方税法で定められている。2026年6月の全国平均159.0円/Lの内訳は、おおよそ本体価格126.9円+軽油引取税32.1円となる。
この税額は1993年以来変わっていないが、本体価格が上昇すれば総額も上がる構造だ。教科書では「軽油引取税は道路財源」と説明されるが、実際には一般財源化されており、運送業界への直接還元は限定的だ。理由は地方自治体の財政運営上、特定財源化が困難になったためだ。
中小運送会社への経営影響:燃料サーチャージの運用実態
軽油価格の上昇は運賃交渉と燃料サーチャージ(燃料費転嫁)の導入を迫る。全日本トラック協会が2023年に実施した「燃料サーチャージ導入状況調査」によれば、導入済み企業は全体の41.2%にとどまり、50台未満の事業者では28.3%とさらに低い。
導入が進まない背景には、荷主との力関係がある。特に食品卸や小売チェーンを相手にする中小事業者は「サーチャージを提案したら次回契約を切られた」という経験を持つケースが少なくない。これは制度の問題ではなく、交渉力の問題だ。全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題」(2024年版)では、トラック運送事業者の営業利益率は平均2.1%と低水準にあり、燃料費の数円単位の変動が収益を大きく左右する構造が指摘されている。
標準的運賃と燃料費の関係
国土交通省は2020年4月に「標準的な運賃」を告示し、2023年に改定した。この運賃表には一定の燃料費水準が織り込まれているが、基準となる軽油価格は告示時点の120円/L程度とされる。2026年6月の159円/Lとは39円の差があり、この差分を別途サーチャージで転嫁しなければ収支が悪化する構造になっている。
国土交通省「貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃について」(令和5年改定版)では、燃料費の変動が一定幅を超えた場合には別途協議する旨が明記されているが、実務上は荷主ごとの個別交渉に委ねられる。最終的な運賃・サーチャージの設定は経営判断になるため、税理士や運送業に詳しい中小企業診断士への相談が前提になる。
燃費改善策の限界と現実
燃料費を抑える手段として、車両の燃費改善やエコドライブが挙げられる。国土交通省の「自動車運送事業のグリーン化推進事業」では、燃費性能の高い車両への代替を促す補助制度が用意されている。しかし、最新の大型トラック(いすゞギガ、日野プロフィア等)でも燃費は5〜6km/L程度にとどまり、10年前の車両と比べて1〜2割改善する程度だ。
エコドライブ研修を実施した事業者の報告では、運転手の意識改善により燃費が5〜8%向上した事例がある。だが、配送先の立地や荷物の重量、渋滞の多い都市部ルートでは改善幅が限られる。結論からいえば、燃費改善だけで軽油価格30円上昇分を吸収するのは不可能だ。
他業種・他国との比較:日本の軽油価格は高いのか
日本の軽油価格を国際比較すると、欧州諸国よりは安いが、米国よりは高い水準にある。IEA(国際エネルギー機関)の「Energy Prices and Taxes」(2025年第4四半期版)によれば、2025年10月時点のディーゼル小売価格は、ドイツ1.68ユーロ/L(約260円/L)、フランス1.72ユーロ/L(約267円/L)、米国0.95ドル/L(約133円/L、1ドル140円換算)となっている。
欧州は環境税やVAT(付加価値税)が高く、軽油価格も高止まりする。一方、米国は産油国であり、税率も低いため日本の8割程度の価格だ。日本の159円/Lは中間的な水準といえるが、運送業にとっては「国際競争力」の問題ではなく「国内の荷主が運賃に転嫁を認めるか」が焦点になる。
他業種の燃料費対策:漁業・農業との違い
燃料価格の上昇は運送業以外にも影響を与えている。農林水産省の「漁業経営調査」(令和4年度)によれば、沿岸漁業の経営費に占める燃油費の割合は23.1%に達し、運送業の18.2%を上回る。漁業では国の「漁業経営セーフティーネット構築事業」により、燃油価格が一定水準を超えた場合に補塡金が支払われる仕組みがある。
運送業にも類似の支援制度として「トラック運送業における燃料価格高騰対策」が2022年に実施されたが、一時的な措置にとどまり、恒常的なセーフティーネットは存在しない。この点は業界団体が継続的に要望を出しているが、2026年6月時点で制度化の動きは見られない。
今後の見通し:2027年までの価格予測と不確実性
軽油価格の短期的な見通しについて、公的機関の公式予測は限定的だ。資源エネルギー庁は四半期ごとに「石油製品価格動向」を公表するが、1年以上先の価格予測は行っていない。民間シンクタンクの試算では、2027年までの軽油価格は155〜165円/Lのレンジで推移するとの見方が多い。
不確実性の要因は次の通りだ。第一に、中東情勢の変化。イラン、サウジアラビア、イスラエル周辺の地政学リスクが顕在化すれば、原油価格は急騰する。第二に、為替レート。日銀の金融政策次第で円安・円高が大きく振れる可能性がある。第三に、国内の税制改正。軽油引取税の税率変更や環境税の導入が議論されているが、2026年6月時点で具体的なスケジュールは示されていない。
電動化・代替燃料の影響は限定的
長期的には電動トラックやバイオディーゼル、水素燃料電池トラックの普及が期待されるが、中小運送会社の現場レベルでは2030年代前半まで大きな影響はない。国土交通省「自動車局環境政策課」の試算では、商用車の電動化率は2030年時点で5%程度にとどまる見込みだ。
理由は航続距離、充電インフラ、車両価格の三つの壁だ。大型トラックの電動モデルは2026年時点で航続距離300km程度、価格は軽油車の2〜3倍になる。関東・関西間の長距離輸送や、東京港大井ふ頭から地方都市への幹線輸送には実用に耐えない。中小事業者が代替燃料車を本格導入するのは、インフラ整備と車両価格の大幅低下が前提になる。
中小運送会社が今やるべきこと:価格変動への3つの備え
軽油価格の上昇トレンドが続く前提で、中小運送会社が取るべき対策は次の三つに集約される。
1. 燃料サーチャージ条項の契約書明記
新規契約・契約更新時に、燃料サーチャージ条項を運送契約書に明記する。条項には「基準価格」「変動幅の算定方法」「改定頻度」を具体的に書き込む。全日本トラック協会が公表する「燃料サーチャージ導入の手引き」(令和5年改訂版)では、基準価格を四半期ごとに見直し、5円以上の変動があった場合に協議する方式が例示されている。
実務では、荷主が大手の場合は先方の契約書雛形に従うケースが多いが、地域の中堅卸や製造業との取引では中小運送会社側から条項案を提示できる余地がある。契約書の文言は行政書士に相談するのが前提だ。
2. 燃費データの定期的な記録と分析
車両ごとの燃費実績を月次で記録し、異常値が出た場合は原因を特定する。デジタコ(デジタルタコグラフ)やドライブレコーダーのデータを活用すれば、運転手ごとの燃費差を可視化できる。国土交通省の「運行記録計による運行管理の高度化」(令和4年度報告書)では、デジタコ導入事業者のうち62.3%が燃費改善効果を実感したと回答している。
ただし、データを取るだけでは意味がない。燃費が悪化した車両は整備不良の兆候があるため、早期にメンテナンスを入れる。フィルター目詰まりやタイヤ空気圧の低下は燃費を5〜10%悪化させる要因になる。
3. 給油拠点の見直しと法人カードの活用
地域別の価格差が10円近くある以上、給油拠点を戦略的に選ぶ余地がある。幹線道路沿いのセルフ給油所や、法人向け割引制度を持つ石油元売系列のカードを活用すれば、1Lあたり3〜5円程度のコスト削減が可能だ。
一部の中小運送会社では、配送ルート上の安価な給油所を運行管理者がリスト化し、運転手に共有している。ただし、遠回りして給油すれば時間と燃料のロスになるため、ルート全体の効率との兼ね合いで判断する。
データで見る判断のタイミング:160円超えが分岐点
軽油価格が160円/Lを超えた状態が3ヶ月以上続いた場合、燃料費増加分を運賃に転嫁できなければ営業利益率が1〜2ポイント悪化する。これは全日本トラック協会「経営分析報告書」(令和4年度)のデータをもとに試算した目安だ。
営業利益率が2%を下回る状態が半年続けば、資金繰りが厳しくなる。この段階で動くべきは、荷主との運賃再交渉、不採算路線の見直し、人員配置の最適化の三つだ。逆に、軽油価格が150円/Lを下回る局面では、燃料費削減分を設備投資や人材採用に振り向ける余地が生まれる。
価格変動を「外部要因だから仕方ない」と放置せず、毎月の損益計算書で燃料費比率をチェックし、閾値を超えたら即座に対策を打つ。それが2026年以降の軽油価格高止まり時代を生き抜く現実的な方法だ。