運行指示書は、乗務前点呼が実施できない運行で作成・携行・回収が義務づけられる法定書類だ。記載漏れ・未回収が巡回指導で即指摘対象になる。

主要データ

  • 運輸業・郵便業の月間平均就業時間:172.0時間(e-Stat、2026年4月時点)
  • 自動車運転者の時間外労働の上限(特別条項):年960時間(厚生労働省・労働基準法に基づく時間外労働の上限規制、2024年4月1日適用)
  • トラック運転者の1日の拘束時間原則上限:13時間(最大16時間・15時間超は週2回以内)/休息期間:継続11時間以上を基本(継続9時間を下回ってはならない)(厚生労働省・改正改善基準告示、2024年4月1日施行)

運行指示書の記入漏れが「一発アウト」になる現場の実態

夜間出庫の長距離便で、乗務員が運行指示書を持たずに出発してしまい、翌朝に気づいた運行管理者が慌てて電話連絡したものの、その時点で帳票上の記録は残らないため、後日国土交通省の巡回指導が入った際に、運行指示書の未作成と未携行を同時に指摘された——こうした事態が中小運送会社で繰り返されている。全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題(2024年版)」によれば、適正化事業実施機関による巡回指導において「運行管理」関係の指摘は全指摘件数の中で最多区分を占め続けており、点呼実施・運行指示書の作成・携行に関する不備がその主要因として挙げられている。

教科書では「運行指示書は2泊3日以上の長距離運行で必要」とだけ書かれていることがあるが、実際の現場では乗務前・乗務後の両方の点呼が対面で実施できない運行すべてに作成義務が発生するため、「うちは1泊2日が中心だから関係ない」と受け止めていた運行管理者が巡回指導でNGを取るのは、必要条件を運行日数で判断し、対面点呼の可否という本来の基準を外してしまっているからである。

本記事では、貨物自動車運送事業法および国土交通省が定める点呼・運行管理の規定に基づき、運行指示書を「作る・渡す・回収する・保存する」という一連の実務フローを、現場でつまずきやすい場面も織り込みながら具体的に解説していく。

運行指示書が必要になる条件を正確に把握する

運行指示書が必要な運行の条件は、「乗務前点呼と乗務後点呼の両方、または一方を対面で実施できない運行」であり、これは貨物自動車運送事業輸送安全規則(以下、輸送安全規則)第9条の3に規定されている。

対面点呼ができない状況として、代表的なのは次の3パターンである。

  • 夜間に営業所を出庫し、翌朝または翌々日に帰庫する運行(いわゆる泊まり運行)
  • 出庫地と帰庫地が異なる運行(例:東名高速を使って荷物を運び、帰り便を別の拠点から積んで戻る場合)
  • 乗務前に運行管理者が不在で、テレビ電話等の代替点呼(IT点呼)も使えない環境での出庫

結論からいえば、判断軸は「2泊3日かどうか」ではなく「対面点呼が物理的に成立するかどうか」であり、この認識が抜けたまま運用している会社では1泊2日の運行であっても運行指示書の作成義務が発生している可能性があるため、適用範囲に迷いが残る場合は、運行実態を整理したうえで所轄の地方運輸局または運輸支局へ確認し、必要に応じて行政書士にも見解を求めておくと運用のぶれを抑えやすい。

作成に必要なものを事前にそろえる

運行指示書を作る前に、以下の情報と書類をそろえておく必要があり、書類の様式は法定様式が定められているわけではない一方で、輸送安全規則が定める必要記載事項を網羅していなければならないため、現場で書き始めてから不足に気づく運用では記載漏れが起こりやすい。

必要な情報・道具

  • 運行の乗務員氏名・車両番号(ウイングボディ、平ボディ、冷蔵車など車種も明記)
  • 運行区間(出発地・経由地・目的地。例:本社車庫 → 東名高速経由 → 名古屋港金城ふ頭 → 帰庫)
  • 運行日時(出発予定日時・帰庫予定日時)
  • 主要な経過地と発着時刻
  • 積載貨物の品名・数量(過積載・軸重超過がないことを確認できる情報)
  • 運行経路上の休憩・宿泊地点(SAやドライバーが休む中間地点)
  • 連絡体制(運行管理者の緊急連絡先)
  • 指示事項(気象・道路情報、荷役作業の注意点、積み付け・ラッシングの確認事項など)
  • デジタコ(デジタル式運行記録計)の記録との突合が必要なため、デジタコの機番または識別情報

様式について

全日本トラック協会が公開しているひな型や各都道府県トラック協会が提供する様式を使っている会社が多く、Excelで自社様式を作っている会社もあるが、必要記載事項が抜けていると法令違反になるため、帳票テンプレートを一から作るのが手間な場合は、帳票テンプレート集(/tools/forms/)から運行指示書を含む法定帳票を無料でダウンロードすると実務を進めやすい。

Step 1:出庫前に運行指示書を作成する

運行指示書は、乗務員が出発する前に運行管理者が作成し、乗務員に手渡すことが原則であり、「出発してから後で持って行く」「電話で内容を伝えれば書面は後日」といった運用は認められていないため、出庫直前の慌ただしい時間帯であっても、帳票作成を点呼関連業務から切り離さずに前倒しで処理する必要がある。

記載する順番と確認ポイント

  1. 基本情報の記入:乗務員氏名、車両番号、運行日時を最初に書く。車両番号は緑ナンバー(事業用ナンバー)であることを確認する。
  2. 運行ルートと経過地の記入:出発地から帰庫地まで、主要な経過地(高速道路のインター、中継地、荷卸し先)を時系列で記入する。東名高速を使う場合はどのインターで降りるかまで書くと、事故・渋滞時の代替ルートを運行管理者が指示しやすくなる。
  3. 休憩・宿泊地点の記入:2024年4月1日施行の改正改善基準告示では、トラック運転者の1日の拘束時間の原則上限が13時間(最大16時間・15時間超は週2回以内)、休息期間は継続11時間以上を基本とし継続9時間を下回ってはならないと定められており、運行指示書の発着・宿泊地点を設定する段階でこれらの数値に抵触しない計画になっているかを必ず照合する必要がある。改善基準告示の詳細な数値基準の確認は改善基準告示チェッカー(/tools/driving-hours-check/)を活用されたい。
  4. 指示事項の記入:悪天候・工事・渋滞の見込み、積み付けやラッシングの注意点、荷役作業での安全確保(KYT・ヒヤリハットの共有も含む)を具体的に書く。「安全運転」だけでは指示事項として不十分と判断される。
  5. 連絡先の記入:運行管理者の携帯番号を必ず記入する。夜間対応できる連絡先がない場合は代替の緊急連絡先も書く。

実務上のポイントとして、運行指示書は複写式(2枚組以上)で作る方法が扱いやすく、1枚は乗務員が携行し、もう1枚は営業所で保管する形にしておけば、回収時に破損や紛失が起きた場合でも記録そのものが消える事態を避けやすいうえ、巡回指導で原本確認を求められた際の対応も落ち着いて進めやすくなる。

Step 2:乗務員への手渡しと点呼記録への記載

運行指示書を作成したら、乗務員本人に直接手渡し、このときは口頭で内容を確認しながら渡すのが現場の作法である。「はい、これ」と黙って渡すだけでは、乗務員が内容を十分に把握しないまま出発するリスクが残り、後の変更対応や帰庫後の照合でも認識のずれが表面化しやすい。

乗務前点呼が対面でできない、つまり運行指示書が必要になる場面では、電話・IT点呼によって点呼を行い、点呼記録簿に「運行指示書を交付した」旨を記載する必要がある。この記録が抜けると、点呼記録と運行指示書の整合が取れなくなるだけでなく、交付の事実そのものを説明しにくくなるため、巡回指導で2件分の指摘につながることもある。

アルコールチェックとの連動

遠隔地から出発する場合でも、アルコールチェッカーによる酒気帯びの確認は義務であり(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条)、乗務員がアルコールチェッカーを携行しているか、あるいは出発拠点に設置されているかを運行指示書の交付時に合わせて確認し、記録はアルコール検知記録と点呼記録の両方に残しておくことで、点呼と安全確認が別々に処理されたように見える状態を避けやすくなる。

Step 3:運行中の指示変更が生じた場合の対応

運行中に荷主から納品先の変更を指示されたり、道路規制で予定ルートが通れなくなったりする状況は珍しくなく、現場ではむしろ定常的に起こり得るため、変更が発生した時点で誰が何を記録し、どこまで確認するかをあらかじめ決めておかなければ、帳票だけが当初計画のまま残る。

輸送安全規則では、運行中に運行指示書の内容を変更する場合、運行管理者が乗務員に電話等で変更内容を指示し、乗務員は手元の運行指示書に変更内容を記入することが求められており、「言った・言わない」にならないよう、運行管理者側でも変更の記録(電話メモ・デジタコの通話記録など)を残すのが実務上の基本となっている。

なお、変更後の運行が改善基準告示の拘束時間・休息期間の基準に抵触しないか、その場で確認することも運行管理者の責務である。労働基準法に基づく時間外労働の上限規制により2024年4月から年960時間以内の制限が適用されている一方で、日々の拘束時間・運転時間の管理は改正改善基準告示の基準に従うため、運行ルートが変われば拘束時間の見込みも変わるという関係を踏まえ、変更指示のタイミングでデジタコや日報の直近記録と照合する習慣を根づかせたい。

Step 4:帰庫後の回収と内容確認

乗務員が帰庫したら、乗務後点呼に合わせて運行指示書を回収し、運行管理者は内容確認までを一連の業務として完了させる必要があり、書類を受け取っただけで終えてしまうと、変更記載や実績時刻の抜けを翌日まで持ち越すことになる。

  • 乗務員が運行中に記入した変更内容・実際の発着時刻が読み取れるか
  • 経過地の実通過時刻と指示事項の遵守状況(迂回ルートを取った場合はその記録があるか)
  • デジタコの記録と運行指示書の区間・時刻が整合しているか

デジタコと運行指示書の記録が大きく乖離している場合は、運転速度・連続運転時間の実態を確認し、問題があれば点呼記録と合わせてドライバーに説明を求めることになるが、この照合作業は単なる帳票確認にとどまらず、過積載・軸重オーバーの見落とし防止にも役立つ。

Step 5:保存と管理——「1年間保存」ルールの実務

回収した運行指示書は、輸送安全規則の規定に基づき所定期間の保存義務があり、保存期間の具体的な日数は省令改正で変動する可能性があるため、最新の輸送安全規則の条文または所轄の運輸支局に確認しておくと、社内ルールだけが古いまま残ってしまう事態を避けやすい。

保存の実務では、月ごとにバインダーでまとめておく方法が巡回指導時の提出を考えると最も手間が少なく、乗務員ごと・車両ごとに仕分けする会社もあるものの、指導の際は「この期間の運行分を全部出してください」という要求が来るため、日付順に整理して月ごとにまとめる管理が現場では確認しやすい

SAS検査(睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング)の結果や適性診断の記録と同様、運行指示書も「いつ、どの乗務員が、どの運行をしたか」を追跡できる帳票として機能しており、健康診断・SAS検査の結果と突き合わせることで、健康リスクの高いドライバーが泊まり運行を担当していないかを点検する運用にも広げられる。

よくある失敗と、現場での対処法

失敗1:「日帰り便だから不要」と判断して未作成

仮に出庫が深夜0時、帰庫が翌日午後3時という運行を考えてほしい。日付はまたがるが「1泊」ではないと判断し、運行指示書を作らなかった——こうした事例で指摘を受けるケースがある。繰り返しになるが、判断軸は「対面点呼が物理的に成立するか」であり、深夜出庫で運行管理者が不在なら、その出庫時点で乗務前点呼が対面でできていないため、運行日数の感覚と無関係に作成義務が発生する。

失敗2:回収を忘れて運行指示書が乗務員の手元に残り続ける

仮に30台規模の運送会社で泊まり便が週に複数本あると、回収管理がずさんになりやすく、帰庫後の乗務後点呼を電話で済ませてしまった結果、書類の回収が翌日・翌々日になり、その間に乗務員が別の運行に出てしまって、運行指示書がどこへ行ったか分からなくなることがある。こうした繰り返しは保存義務を果たせない状態を招くため、対処としては乗務後点呼のチェックリストに「運行指示書の回収」を1項目として入れることが有効であり、点呼記録簿の様式を改訂して回収確認欄を設ければ、記録と一体で管理しやすくなる。

失敗3:運行中の変更を口頭だけで済ませ、書面に反映しない

「電話で言ったから大丈夫」と受け止めがちでも、電話連絡の記録は点呼記録や運行指示書の変更記載で補完しなければ後から追跡できず、特に変更後の運行で拘束時間が伸びた場合は、改善基準告示との整合を確認するうえでも書面での記録が欠かせない。

失敗4:様式の必要記載事項が不足している

自社で作ったExcel様式に「休憩・宿泊地点」の欄がない、「連絡先」の欄がない、といった不備が巡回指導で指摘されるケースがあり、様式を自作するなら、全日本トラック協会が公開している確認資料や、輸送安全規則第9条の3が定める記載事項と照合して欠落がないかを確認しておきたい。

安全上の注意点——運行指示書は「安全管理の設計図」

運行指示書の論点は、単なる書類管理ではなく、安全管理そのものに関わるため、帳票の不備を事務ミスとして片づけると、実際には運行計画の粗さや現場指示の不足を見逃すことになりやすい。

国土交通省「事業用自動車総合安全プラン2025」によると、事業用トラックが第一当事者となる死亡事故は2023年に218件発生しており、運行計画の適切な設計が事故防止の根幹として重く扱われていることが数字からもうかがえる。

たとえば運行指示書に「名古屋港金城ふ頭着9時」と書いてある場合、その時刻に間に合わせようとしてドライバーが無理な運転をする可能性があり、e-Stat(政府統計ポータル)の労働統計によると、運輸業・郵便業の月間平均就業時間は2026年4月時点で172.0時間に達しているため、労働時間管理の厳格化が続く中では、余裕のない時刻設定が連続運転時間の超過やヒヤリハットの温床になりやすいことが見て取れる。

運行指示書の発着時刻を設定する際は、以下を必ず確認する。

  • 連続運転時間の上限(改善基準告示)を超えない休憩地点が途中に設けられているか
  • 休息期間が確保できる宿泊地点になっているか(宿泊場所が取れない場合は運行計画を変更する)
  • 悪天候・渋滞の想定時間を加味して発着時刻に余裕があるか
  • 初任運転者や健康診断・SAS検査で所見があった乗務員に、過重な運行を組んでいないか

また、荷役作業(積み付け・ラッシング・バース待ち)が発生する場合は、その時間も拘束時間に含まれるため、荷待ち時間が発生しやすい拠点への運行では、事前に荷主と調整して待機時間を短縮する取り組みが、2025年4月施行の改正物流効率化法の趣旨とも一致する。運行指示書の「指示事項」欄を使って、荷役時の安全手順や待機中のエンジン停止・アイドリングルールを明示しておけば、書類と現場行動が切り離されにくくなり、事故防止にも結びつきやすい。

次にやるべきこと——今週中に着手できる3つの改善

まずは、自社の直近1カ月分の運行指示書を引っ張り出し、運用実態を3点から確認するとよい。

  1. 必要な運行すべてに作成されているか:泊まり運行・深夜出庫の運行すべてを洗い出し、運行指示書が存在しない運行がないかをチェックする。
  2. 回収できているか・保存できているか:回収漏れがあれば、乗務後点呼のチェックリストに回収確認欄を今日追加する。
  3. 様式の必要記載事項が揃っているか:輸送安全規則第9条の3の記載事項リストと自社様式を照合し、欠落があれば今週中に改訂する。様式の作成・変更には帳票テンプレート集(/tools/forms/)を活用すると時間を節約できる。

運行指示書の管理は、点呼記録簿・運転日報・デジタコ記録と一体で機能して初めて意味を持つものであり、どれか一つが欠けると巡回指導では複数の指摘につながるため、まずは「今週の泊まり便で運行指示書が全件作成・回収できているか」を確認するところから始めたい。そこを押さえておけば、帳票管理の立て直しだけでなく、運行管理全体の粗い部分も見えやすくなる。