コールドチェーンの温度記録をExcelで管理するには、品温ログの入力シートと自動アラート機能を組み合わせたブックを1日で構築できる。

主要データ

  • 運輸業・郵便業の月間平均就業時間:179.6時間(総務省「労働力調査」産業別平均月間就業時間)

「とりあえず温度を書いておいた」では監査で詰められる

食品物流の現場で温度記録を紙の日報で続けている会社が自治体の立入検査を受けた際、そこで初めて表面化しやすいのが「記録の形式不備」であり、品温の欄に運転者が手書きで数字を残していても、いつ計測したのか、誰が確認したのか、さらに逸脱(温度帯を外れたこと)が起きた場合にどう処置したのかまで追えないケースは珍しくない。

HACCPに沿った衛生管理が義務化され、自治体の監視・指導も強まっているため、こうした「とりあえず書いた」記録は改善指導の対象になりうる一方で、厚生労働省のHACCP関連通知では温度記録に完全性・継続性・逸脱時の対応記録をセットで求めていることから、紙の日報だけで三点を満たそうとすると様式が複雑になり、結果として運転者が記入しにくくなりやすい。

Excelで温度記録シートを作る目的は、紙より楽に管理することだけにとどまらず、記録の抜けを構造的に防ぐ点にもあり、入力する人が同じであっても、セル書式・条件付き書式・関数を組み合わせることで、記録漏れや逸脱の見落としを自動的に拾いやすくなる。

以下では、中小の冷蔵・冷凍車運行会社が実際に使える温度記録Excelブックの作り方を、シート設計から関数設定まで順を追って見ていく。

前提条件と必要なもの

このシートが前提とするのは、いすゞフォワードや日野プロフィアクラスの冷蔵車・冷凍車で定温輸送(冷蔵帯・冷凍帯を問わず)を行っている運送会社であり、温度ロガー(自動記録器)を搭載していない場合だけでなく、搭載していても手動の補完記録を残したい現場に対応できるよう、運用の幅を持たせた構成にする。

必要なもの

  • Excel 2016以降(関数「IFS」「TEXTJOIN」が使えるバージョン。Microsoft 365ならすべて対応)
  • 印刷用のA4用紙(ドライバーが手書きで補完する場合の予備として)
  • 各荷主・得意先から指定された温度管理基準(冷凍帯なら「○℃以下」、冷蔵帯なら「○℃〜○℃」の範囲。具体的な数値は荷主との契約書・仕様書を確認すること)
  • 温度計測のタイミング一覧(出発前・中間点・着荷時など、荷主または自社の運行ルールで定めたもの)

温度管理の基準値、つまり何度以下または何度の範囲を維持するかという条件は、食品衛生法・HACCPの枠組みの中で荷主が設定するものであり、運送会社が独自に閾値を決める性格のものではないため、契約書や商品仕様書の確認を先に済ませ、その数値をExcelシートへ反映させる流れにしておく必要がある。

Step 1:ブック全体の設計図を決める

最初にシート構成を決める。ここを飛ばして入力欄だけを先に作ると、後から項目を足すたびにレイアウトも参照式も崩れやすい。温度記録Excelブックは、最低でも三枚のシートに分けておくと扱いやすい。

推奨シート構成

  1. 【マスタ】シート:車両番号・ドライバー名・ルート名・荷主別温度基準値を一覧で管理する。本シートを参照することで、入力シートのプルダウンと条件付き書式が自動的に設定値を拾う。
  2. 【日次入力】シート:ドライバーが毎日入力する記録欄。1行=1計測イベント(出発前・中間・着荷時など)。
  3. 【月次集計】シート:日次入力から自動集計される。逸脱件数・空欄件数・車両別の記録状況をまとめて管理者が確認する。

シートを分ける最大の利点は、マスタを直せば全シートの基準値が連動する点にあり、荷主の温度仕様が変わった場合でもマスタの数値を書き換えるだけで済むため、日次入力や月次集計まで個別修正する手間を増やさず、運用の安定性を保ちやすい。

Step 2:【マスタ】シートを作る

マスタシートは参照専用のデータベースとして扱い、入力禁止のロックをかけて管理者だけが編集できるようにしておくと、誤更新によって基準値や参照先が崩れる事態を抑えやすく、日次入力側のトラブルも連鎖しにくい。

マスタシートの列構成(例)

A列

B列

C列

D列

E列

車両番号

車両区分

担当ドライバー

荷主コード

荷主名

F列

G列

H列

温度上限(℃)

温度下限(℃)

備考

F列・G列に温度の上限・下限を入力する。冷凍帯の荷主であれば下限は荷主指定の値を、冷蔵帯であれば上限・下限の両方を仕様書に合わせて設定する必要があり、この数値は荷主の契約書・仕様書から持ってくる前提であって、運送会社が独自判断で設定してよいものではない。

名前付き範囲の設定

マスタシートの各列を「名前付き範囲」として定義しておく。Excelの「数式」タブ→「名前の定義」で、たとえばA列全体に「車両リスト」と名前を付ける。日次入力シートのプルダウンがこの名前を参照するため、マスタに行を追加するだけで選択肢が増える仕組みにできる。

Step 3:【日次入力】シートを作る

ここは現場のドライバーが毎回触る画面であり、入力の手間を抑えながら記録の完全性を確保することが設計の中心になるため、見た目の分かりやすさと関数による自動判定を同時に満たす構成にしておきたい。

列構成(推奨)

列

項目名

入力方式

A

日付

手入力(書式:yyyy/mm/dd)

B

車両番号

プルダウン(マスタ「車両リスト」参照)

C

ドライバー名

VLOOKUP自動表示

D

計測タイミング

プルダウン(出発前・中間・着荷時・その他)

E

計測時刻

手入力(書式:hh:mm)

F

荷主コード

プルダウン(マスタ参照)

G

実測温度(℃)

手入力(数値のみ)

H

温度上限(自動)

VLOOKUP自動表示

I

温度下限(自動)

VLOOKUP自動表示

J

判定

IF関数自動表示(OK / 逸脱)

K

逸脱時の処置

手入力(逸脱時のみ必須)

L

確認者サイン

手入力(管理者が記録確認後に入力)

C列のVLOOKUP(ドライバー名自動表示)

B列に車両番号が入ったら、C列に自動でドライバー名を表示させる。C3セルに以下を入力する。

=IFERROR(VLOOKUP(B3,マスタ!$A:$C,3,FALSE),"")

マスタシートのA列(車両番号)を検索キーにして、C列(担当ドライバー)を返す。IFERRORを入れておけば、車両番号が未入力の行は空白のままにでき、入力途中の見た目も崩れにくい。

H列・I列の温度基準自動表示

F列に荷主コードが入ったら、マスタから上限・下限を引っ張る。H3セルに以下を入力する。

=IFERROR(VLOOKUP(F3,マスタ!$D:$G,3,FALSE),"")

I列(下限)はVLOOKUPの列番号を4に変える。

=IFERROR(VLOOKUP(F3,マスタ!$D:$G,4,FALSE),"")

J列の判定式

実測温度(G列)が上限(H列)と下限(I列)の範囲内かを自動判定する。J3セルに以下を入力する。

=IF(G3="","未入力",IF(AND(G3>=I3,G3<=H3),"OK","逸脱"))

実測温度が空欄の場合は「未入力」と表示することで、記録漏れを一目で発見できるだけでなく、入力完了の行と未処理の行を現場で即座に見分けやすくなる。

条件付き書式の設定

J列が「逸脱」のときに行全体を赤く塗りつぶし、「未入力」のときは黄色で強調する。設定手順は以下の通りだ。

  1. A3からL500を選択(入力行の想定最大行まで)
  2. 「ホーム」→「条件付き書式」→「新しいルール」→「数式を使用して書式設定するセルを決定」
  3. 逸脱ルール:数式欄に =$J3="逸脱" と入力し、塗りつぶしを赤に設定
  4. 未入力ルール:同様に =$J3="未入力" と入力し、塗りつぶしを黄に設定

逸脱ルールは未入力ルールより上に配置する。優先順位が低いと逸脱行が黄色で塗られてしまうため、異常の見落としを避けるうえでも並び順の確認まで含めて設定しておきたい。

Step 4:入力ミスを防ぐデータ入力規則の設定

一般的なExcel解説では、データ入力規則でプルダウンを作れば十分とされがちだが、実際の現場では数値列(G列:実測温度)に文字が入る事故が繰り返し起きやすく、「計測不能」「機器不良」などの文字を入れた結果、判定関数がエラーになってシート全体の見通しが悪くなることもあるため、入力規則は見た目以上に重要になる。

理由は単純で、ドライバーが機器トラブルを報告する代替手段を持っていない場合が多いからだ。そこで対策は二段階に分け、まずG列に「10進数」の入力規則をかけて文字入力を弾き、次にK列(逸脱時の処置)へドロップダウンで「機器不良・管理者に連絡済み」という選択肢を用意し、数値が入力できない理由をK列で報告させる形にすると運用しやすい。

G列のデータ入力規則設定手順

  1. G列全体を選択
  2. 「データ」→「データの入力規則」→「整数」または「小数点数」を選択
  3. 最小値・最大値は現実的な範囲を設定(現場で扱う最低・最高温度を踏まえた値を荷主仕様に合わせて設定する)
  4. 「エラーメッセージ」タブで「数値のみ入力してください。文字は入力不可です」と表示させる

Step 5:【月次集計】シートを作る

管理者が月末にまとめて確認するためのシートであり、日次入力シートのデータを集計する関数を並べておけば、ドライバーが触る画面と管理者が確認する画面を分離できるため、確認作業の精度を上げやすく、抜けや偏りも追いやすくなる。

主要な集計関数

総記録件数(日次入力シートのG列に数値が入っている行数)

=COUNTA(日次入力!G:G)-1(1行目のヘッダを除く)

逸脱件数

=COUNTIF(日次入力!J:J,"逸脱")

未入力件数

=COUNTIF(日次入力!J:J,"未入力")

車両別逸脱件数(B列が特定の車両番号で、かつJ列が「逸脱」の件数)

=COUNTIFS(日次入力!$B:$B,A5,日次入力!$J:$J,"逸脱")

A5に車両番号を入力し、横にコピーする。

月次集計シートの活用場面

HACCPの運用フェーズでは、自治体の監視指導において「記録の継続性」と「逸脱時の対応記録」が確認されるため、月次集計シートがあれば管理者は月に一度、繁忙期であれば週次で、逸脱件数と未入力件数を見ながら、問題があった行のK列の処置記録とL列の確認者サインが揃っているかまで照合しやすくなる。

逸脱が続く場合は改善指導の対象となる可能性があるため、発生パターンを集計シートで早めに把握することが現場運用の基本となっており、単なる件数確認だけで終わらせず、どの車両・どのタイミングで偏りが出ているかまで見る視点が求められる。

Step 6:シートの保護と運用ルールの設定

Excelシートを「誰でも何でも編集できる」状態で運用すると、どこかの時点で関数が消えることがある。防げる事故であり、入力担当者の注意力だけに頼るより、壊れにくい設計へ寄せた方が実務では安定しやすい。

シート保護の手順

  1. 日次入力シートで、ドライバーが入力する列(A・D・E・F・G・K列)だけセルの「ロック」を解除する(セル選択→右クリック→「セルの書式設定」→「保護」タブ→「ロック」のチェックを外す)
  2. それ以外のセル(関数が入っているC・H・I・J・L列)はロックしたまま
  3. 「校閲」→「シートの保護」でパスワードを設定する。パスワードは管理者のみが知る

マスタシートと月次集計シートは全列ロックして保護する。

ファイル保存・命名規則

ファイルは月ごとに別名保存する。例:「温度記録_202610.xlsx」のように年月をファイル名に含める。同じファイルを上書き保存し続けると過去データが混在して追いにくくなるため、保存先フォルダも年度単位で管理し、担当者が変わっても場所をたどれる構造にしておくと引き継ぎしやすい。

よくある失敗と対処法

失敗1:VLOOKUPが「#N/A」で埋まる

冷蔵・冷凍混載ルートを担当する運転者が、日次入力シートのF列(荷主コード)に荷主コードを手入力したところ、H列・I列がすべて「#N/A」になったケースがある。原因はマスタシートの荷主コードに全角スペースが混入していたことだ。

対処は二つある。一つはマスタの荷主コード列をTRIM関数でクリーニングする方法であり、もう一つは日次入力シートのF列をプルダウン入力に変えて手入力を禁止する方法で、後者の方が入力起点の揺れを減らしやすい。

失敗2:条件付き書式が途中の行から効かなくなる

新しい行を途中に挿入した際、条件付き書式の適用範囲がずれてしまい、下半分の行が白のままになることがある。Excelは行挿入のタイミングで書式ルールの範囲を自動調整するが、いつも期待通りに動くとは限らない。

対処としては、月初にシートをコピーして新しい月のシートを作る際、A3:L500の条件付き書式を一度削除してから再設定する方法が取りやすく、作業自体は短時間で終わる一方で、このリセット習慣を月次ルーティンに加えておくと書式崩れが起きにくくなる。

失敗3:「未入力」件数が毎日増え続けて月次集計が機能しない

入力行を500行まで用意しているのに実際の入力は月30〜50行程度という場合、使われていない451〜470行がすべて「未入力」とカウントされ、COUNTIF関数の結果が膨らむことがある。

対処は、COUNTIF関数の範囲を固定の全列指定から動的範囲に変える方法と、そもそも判定関数(J列)を「G列が空のときは空白」と最初から設定しておく方法の二つがあり、J3セルの判定式を以下に修正すれば未使用行まで集計される問題を抑えられる。

=IF(A3="","",IF(G3="","未入力",IF(AND(G3>=I3,G3<=H3),"OK","逸脱")))

A3(日付)が空白の行はJ列も空白にする、という条件を先頭に付けるだけで、未使用行が件数に混ざる状況を避けやすくなる。

コールドチェーン温度記録エクセル作り方におけるよくある失敗と対処法の様子

安全上の注意点

Excelはシステムではなく「記録を補助するツール」として位置づける

Excelベースのシートは、ISO22000や食品安全規格が要求する「改ざん防止」や「監査証跡(変更履歴)」の機能を持たないため、管理体制まで含めて考える必要があり、単に入力様式を整えただけでは監査対応の土台として十分とは言い切れない。

誰がいつセルを変更したかが残らないため、監査で改ざんを疑われた場合の証明が難しく、したがってExcelシートはあくまで現場の記録補助ツールとして使い、原本は温度ロガーのデータか手書き伝票として別途保管する運用が安全側となる。HACCPの記録保存期間については、厚生労働省および所轄自治体の指導内容に従いたい。

食品用容器包装のポジティブリスト制度への確認も外せない

コールドチェーンで使用する保冷容器・包材も食品用器具・容器包装の規制対象となるため、荷主から指定された保冷資材がポジティブリスト適合品かどうかの確認は荷主側の責任である一方、運送会社として使用実態を把握していない場合には、荷主への確認を促すことが運用上のリスク管理につながる。

改正物流効率化法と温度管理の関係

改正物流効率化法の判断基準では、温度管理を要する貨物の荷待ち時間短縮が荷主・物流事業者の協議事項として論点化されており、冷蔵車の予冷時間や積込待機の長短は温度記録の逸脱パターンと直結するため、記録の分析は社内確認だけで終わらない。

月次集計シートで「出発前計測の逸脱が特定の曜日・ルートに集中している」ケースが見えてきたら、それは荷待ちや予冷管理の課題として荷主と協議する材料になり、感覚論ではなく記録に基づいて話を進めやすくなる。

温度ロガーとの併用で二重確認体制を作る

リーファコンテナや冷凍車に温度ロガーを搭載している場合、ロガーの自動記録データとExcelの手動記録が乖離している行は要確認であり、その原因がドライバーの入力ミスなのか、温度ロガーの機器異常なのかを切り分ける手順まで社内ルールとして決めておくと、確認作業が属人的になりにくい。ロガーの設定・運用については機器メーカーの保守マニュアルに従う。

次にやるべきこと

まず今週中に着手したいのは、マスタシートの荷主別温度基準値を荷主の契約書・仕様書から引っ張り出してリスト化することであり、ここが抜けたまま入力シートを作っても判定式は機能しないため、マスタの整理が終わった段階で本記事のStep 3の判定式を日次入力シートへ貼り付け、最初の一週間は既存の紙の日報と並行運用して動作確認する流れが取りやすい。

温度記録の体制が整ったら、次に検討したいのは運行管理全体の効率化だ。拘束時間・改善基準告示に関する確認は、改善基準告示チェッカーで勤務時間を入力するだけで基準超過のリスクを確認できる。

補助金を活用して温度ロガーや冷凍・冷蔵設備の更新を検討している場合は、補助金検索ツールから業種・目的別に使える制度を探してみること。補助額・採択条件は年度ごとに変わるため、最新の公募要領は中小企業庁・国土交通省の公式ページで確認するのが前提になる。

Excelシートの整備は入口にすぎず、記録が揃ってからが運用の本番であるため、月次集計で逸脱パターンを分析し、荷主との協議資料や社内改善提案にまでつなげていきたい。

関連記事: コールドチェーンの温度逸脱に即対応する手順と現場が陥りやすい失敗パターン