燃料費の原価計算は「走行距離÷実燃費×燃料単価」で1運行ごとに積み上げるのが基本だ。固定費・変動費の分類と帰り荷の扱いが精度を左右する。
「燃料費だけ合わせれば採算が取れる」という誤解が、赤字運行を量産する
燃料費の原価計算で最初に詰まるのは計算式そのものではなく、「燃料費が合っていれば利益が出る」という前提が現場の実態とずれている点で、この認識のずれを残したまま数字だけ整えても、採算判断は簡単に狂ってしまう。
たとえば、東名高速を使って東京から名古屋方面に定期便を組んでいる運行で、ドライバーが帰路に帰り荷を積んで戻ってきたとしても、往路の燃料費は計算している一方で復路は「どうせ走る分だから」と計上を省略している会社は珍しくなく、その結果、帰り便の実態は片道原価の計算しかできていないまま運賃交渉に臨むことになる。
燃料費の原価計算は「1運行=往路+復路の全燃料費」を一つの単位として積み上げ、そこに固定費配賦を加えて初めて意味を持つのであって、片道だけ、あるいは燃料費だけを見て採算を判断するやり方は、原価計算というより費用の一部だけを切り取って見ている状態にとどまる。
この記事では、10〜50台規模の運送会社が現場で使える燃料費の原価計算の手順を、Excelで管理できる水準まで落とし込んで説明する。
前提条件と必要な道具を揃える
原価計算を始める前に、手元に必要なデータと道具を確認しておく必要があり、この工程を省くと入力漏れや集計不能が後工程で一気に表面化しやすいため、最初の段階で素材をそろえることが作業全体の安定につながっていく。
必要なデータ
- 車両ごとの給油記録:給油日・給油量(リットル)・走行距離(その時点のオドメーター)・単価。デジタコまたは運行記録計のデータがあれば連携できる
- 運行記録:出発地・目的地・経由地・実走距離・積載量(または積載率)・高速料金の実績
- 固定費の月次集計:車両減価償却費・自動車税・任意保険料・自賠責・車検費用・駐車場代など。これらは後の工程で走行距離あたりに分解する
- 人件費の月次集計:ドライバーの基本給・各種手当・社会保険料の事業主負担分を車両・運行ごとに紐付けられる形にする
必要な道具
- Excel(基本的な四則演算と関数SUMIF・VLOOKUPが使えれば十分)
- 給油伝票または給油カードの明細(月次でまとめる)
- 運行日報(紙でもExcelでも可。後述のフォーマットに転記する)
帳票類の整備が追いついていない場合は、帳票テンプレート集で運転日報や点呼記録簿の様式を無料で入手できるため、個別の工夫を増やす前に、まず記録フォーマットを統一して集計可能な状態を作っておきたい。
Step 1:実燃費を車両ごとに正確に把握する
燃料費計算の土台は「実燃費(km/L)」で、カタログ燃費や感覚値のまま計算を進めると、運行ごとの原価差が見えなくなるだけでなく、後の運賃判断にもずれが持ち込まれてしまう。
実燃費の計算式
実燃費(km/L)=給油間の走行距離(km)÷ 給油量(L)
この計算を「満タン法」で行う。前回満タンにしてから今回満タンにするまでの走行距離を、今回の給油量で割る。途中で少量給油した場合は累計で管理する。
教科書では「平均燃費を使って年間燃料費を試算する」と説明されることが多いものの、実際の現場では車両ごと・季節ごと・積載量ごとに燃費は大きく変動し、いすゞフォワードの4トン車と日野プロフィアの大型車では燃費の絶対値も変動幅も異なるうえ、同じ車両でも夏のエアコン使用時と冬季では差が出るため、試算前提をそのまま運行原価に当てはめるのは無理がある。
実務では、車両ごとに過去3〜6ヶ月の実燃費をExcelで集計し、「この車両のこの季節の実燃費はおおむね○km/L前後で推移している」という自社データを持っておくほうが、例外的な値を見抜くうえでも、将来の見積もり精度を高めるうえでも役立ちやすい。
実燃費悪化のチェックポイント
実燃費が従来の推移から外れ始めたときは、原価計算の数字が崩れる前に整備を確認したいところで、単に「最近燃費が悪い」で終わらせるのではなく、どの要因が変化したのかを切り分けて見る姿勢が管理の基本になる。
- エアフィルター・燃料フィルターの詰まり(メーカー保守マニュアルに記載された交換周期を基準に、走行条件が厳しい場合は早めに点検)
- タイヤの空気圧低下(規定値を下回ると転がり抵抗が増し燃費に直結する)
- 積載過多・不適切な重量配分
- アイドリング時間の増加(デジタコのログで確認できる)
Step 2:1運行あたりの燃料費を計算する
実燃費が把握できたら、次は1運行(1便)ごとの燃料費を積み上げる段階に移るが、この工程では式そのものより、どの距離を対象にし、どの単価を当てるかという入力条件をそろえられるかどうかが精度を左右する。
基本計算式
1運行の燃料費(円)= 実走距離(km)÷ 実燃費(km/L)× 軽油単価(円/L)
軽油単価は週次で変動するので、本文に特定時点の価格を記載することは避ける。自社の燃料費やサーチャージ試算には燃料サーチャージ計算ツールを活用してほしい。資源エネルギー庁が毎週公表する「石油製品価格調査」の全国平均価格も参照できる。
帰り荷の燃料費配賦をどう扱うか
往路と復路で異なる荷主の仕事を積む場合、燃料費をどちらに何割配賦するかが問題になり、ここで処理が曖昧だと便別採算だけでなく荷主別採算の比較まで不安定になるため、配賦基準は最初に決めておくほうが運用しやすい。
単純に「距離比」で配賦する方法は最もシンプルで、往路200km・復路180kmなら、往路に全燃料費の200/380(約52%)、復路に180/380(約47%)を配賦することになるし、荷主ごとに異なる積載率がある場合は「距離×積載量(トン)」を重みにする「トンキロ配賦」を使うと、配賦の納得感を高めやすい。
どちらか一方だけが絶対に正しいという話ではなく、自社で統一したルールを決めて毎月同じ基準で計算することが先であり、途中でルールを変えると時系列比較ができなくなるうえ、改善施策の効果検証まで難しくなってしまう。
高速料金の扱い
高速料金は燃料費とは別の変動費として計上する。ETCの各種割引制度(深夜・休日・平日朝夕等)を組み合わせて実際に支払った額を運行ごとに記録する。料金は車種・距離・時間帯で変動するため、NEXCO各社の料金検索ツールで個別ルートを確認して記録するのが原則となっている。
Step 3:固定費・人件費を走行距離単価に分解する
燃料費(変動費)だけを計算しても、それは総コストの一部にすぎず、車両原価と人件費を加えて初めて「1運行あたりの原価」になるので、ここを飛ばすと黒字に見える便が実際には利益を削っているケースを見落としやすい。
車両の固定費を月間走行距離で割る
車両1台あたりの月次固定費の典型的な内訳は以下の通りだ。
- 減価償却費(車両取得価格÷耐用年数÷12ヶ月)
- 自動車税(年額÷12ヶ月)
- 自賠責保険料(年額÷12ヶ月)
- 任意保険料(年額÷12ヶ月)
- 車両整備・点検費用(年間見込額÷12ヶ月)
- 駐車場・車庫費用(月額)
これらを合算した月次固定費を、その車両の月間走行距離(km)で割ると「固定費単価(円/km)」が出る。
固定費単価(円/km)= 月次固定費合計(円)÷ 月間走行距離(km)
月間走行距離が少ない月は固定費単価が上がり、これは実車率(実際に荷物を積んで走っている距離の比率)が落ちると原価が押し上がる構造を意味しているため、単に走行距離の多寡を見るのではなく、稼働の質まで含めて確認する必要がある。全日本トラック協会が公表している「日本のトラック輸送産業 現状と課題」では、トラック運送業における営業収益に対するコスト構造が定期的に示されており、人件費・燃料費・減価償却費の比率推移の参考になる(最新年度版の確認を推奨する)。
人件費の配賦
ドライバー1人の月次人件費(基本給+諸手当+社会保険料事業主負担分)を、その月の実働時間または実走距離で割って時間単価または距離単価を出し、どの基準で按分するかを先に決めておくと、運行別比較のぶれを抑えやすくなる。
人件費単価(円/時間)= 月次人件費合計(円)÷ 実働時間(時間)
拘束時間・休息期間の管理に不安がある場合は、改善基準告示チェッカーで勤務時間からの基準確認ができる。労務管理の最終判断は社会保険労務士への相談を前提にすること。
Step 4:1運行あたりの総原価と運賃を突き合わせる
ここまでの各要素を1運行ごとに集計して総原価を出すが、重要なのは数字を並べること自体ではなく、実際に収受している運賃と同じ単位で比較できる形に整え、採算の良し悪しを判断可能な状態にすることにある。
1運行の総原価の計算式
1運行の総原価= 燃料費 + 高速料金 + 固定費(距離単価×実走距離) + 人件費(時間単価×乗務時間)
これに対して実際に収受している運賃(荷主から請求している金額)を対比する。運賃が総原価を上回っていれば黒字、下回っていれば赤字となる。
傭車(他社に依頼する庸車)を使っている場合は傭車費用をそのまま変動費として加える必要があり、自車よりも傭車コストが高い便が常態化しているなら、単発の例外として片づけるのではなく、路線の組み直しや車両の増車を検討する判断材料として見ていくことになる。
国土交通省「標準的な運賃」との対比
国土交通省が告示する「標準的な運賃」は、原価を適正に回収できる運賃水準の参考として活用でき、距離制運賃・時間制運賃のいずれも告示されているため、荷主交渉や運賃改定の際の根拠資料として扱いやすい。自社の原価計算結果と標準的な運賃を突き合わせることで、「どの路線・荷主との取引が採算割れしているか」が見えやすくなる。
運賃の概算試算は運賃シミュレーターで標準的な運賃をもとに行える。荷主交渉の場面では、自社の原価計算結果と組み合わせて交渉資料を作ることが前提になる。
よくある失敗と対処法
失敗1:給油記録と走行距離が一致しない
複数の運行で使い回している車両では、ドライバーが給油日・走行距離を正確に記録していないケースがあり、たとえば1台のウイングボディ車を週に3人が交代で使う運行体制で、給油記録の走行距離欄に「前回の続き」が書かれていないドライバーがいると、実燃費の計算は根本から崩れてしまう。
対策としては、給油時の記録フォーマットを統一し、「給油時の走行距離(オドメーター値)」を必須記入項目にするのが基本で、デジタコが搭載されている車両であれば、デジタコの走行距離ログを正として給油記録と照合することで、人手の記入ミスも補正しやすくなる。
失敗2:月次で合算して「月間燃料費÷走行距離」だけを計算している
月単位の平均燃費を出して「今月は燃費が悪かった」と確認するだけでは、どの路線・車両・ドライバーが原因かが分からず、数字は取れていても改善対象が特定できないため、原価改善にはつながりにくい。
これは燃費管理の問題というより原価管理の粒度の問題で、運行単位・車両単位・ドライバー単位で細分化して初めて、どこに手を打てば効果が出るのかという改善の方向が見えてくる。
失敗3:燃料費だけ計算して「採算が取れている」と判断する
中小規模の運送会社でよく見られる失敗で、燃料費だけを見て「運賃から燃料費を引いたら黒字だった」と判断するケースでは、固定費(減価償却・保険料・税金)と人件費が原価に含まれていない。
「燃料費分だけ稼げていれば良い」という発想は、固定費と人件費を事業の体力で賄えている間しか成立せず、見かけ上の黒字に安心して薄利案件を積み上げると収支全体を圧迫しやすい。全日本トラック協会の経営分析報告書(最新年度版)では、トラック運送業の営業損益や収支の構造が示されており、燃料費以外のコスト比率を自社と比較する際の参考になる。
失敗4:軽油引取税を燃料費の原価計算に含め忘れる
軽油には軽油引取税(地方税)が課されており、給油伝票に記載されている単価にはすでに含まれている場合がほとんどだが、給油カードの明細が税込か税抜かを確認しないまま単価を使うと計算にずれが生じるため、給油伝票または給油カード明細で「軽油引取税込みの単価か否か」を確認してから計算に使いたい。税制の詳細は税理士に確認することを推奨する。
安全上の注意点と法令上の留意事項
原価計算の数値を運賃交渉に使う際の注意
自社の原価計算結果は「参考値」で、計算の前提(実燃費の期間・固定費の算定方法・人件費の計上範囲)が変われば数値も変わるため、荷主交渉や運賃改定の場面で使う際は、前提条件を明示したうえで提示することが信頼性を高める。
国土交通省が告示する「標準的な運賃」を根拠として活用することも有効で、告示運賃は法的に届け出が義務付けられているわけではないものの、原価を回収できる水準として公的に示されたものであるため、荷主との交渉で「根拠のある数字」として機能しやすい。
労務管理との連動
原価計算を精緻化すると、ドライバーの乗務時間と人件費の関係が見えてくる。労働基準法に基づく時間外労働の上限規制(2024年4月1日から自動車運転業務に適用)および改善基準告示に定める拘束時間・休息期間の基準との整合を必ず確認する。原価計算の結果として「もっと長く走らせれば1運行あたりのコストが下がる」という方向への誘惑が生まれることはあるが、そこに寄せすぎると法令違反につながるリスクが高まるため、労務管理の最終判断は社会保険労務士に相談することが前提になる。
燃料費の変動リスクへの対応
軽油価格は国際情勢・為替・税制によって変動するので、固定した単価で原価計算を組むと価格が上振れした際に採算が崩れやすく、対策としては燃料サーチャージの仕組みを荷主との契約に盛り込んでおく方法が現実的な選択肢になる。
燃料サーチャージとは、基準単価を設定し、軽油価格が一定の水準を超えた場合に差額の一部を運賃に上乗せする仕組みを指す。標準的な計算手順については資源エネルギー庁が公表している「石油製品価格調査」を基準単価の参照に使う例もある。
次にやるべきこと
原価計算の骨格が整ったら、次は「どの路線・どの荷主が赤字に近いか」を可視化する段階に進みたく、全路線・全取引先を一度に見直さなくても、まず月次の燃料費・走行距離・運賃の3つを車両別・路線別に並べるだけで、採算の悪い案件はかなりの確率で浮かび上がってくる。
浮かび上がった案件から順番に、①標準的な運賃との差を確認し、②原価の内訳で何が重いかを特定し、③荷主交渉・ルート変更・求貨求車による帰り荷確保のどれで改善できるかを判断する。この3ステップが「原価計算を作って終わり」ではなく、経営改善につながる使い方になる。
経営指標の同業比較が必要な場面では、全ト協の公表データとの対比に経営ベンチマーク診断が役立つ。自社の利益率・コスト構造が業界平均とどこにずれているかを確認したうえで、改善の優先順位をつけると動きやすい。
現場のベテランは「燃料費の計算は毎月やるが、それだけで赤字は防げない。怖いのは固定費の重さに気づかないまま薄利の仕事を積み重ねることだ」と言う。燃料費の原価計算は出発点にすぎず、固定費配賦と路線別採算管理まで組み上げてはじめて、日々の運賃判断や荷主交渉に耐える数字として機能してくる。
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