配車管理は「誰が・何を・どこへ・いつ」を最適化する実務の核心であり、Excelと口頭伝達だけでは限界が来る前に体系化が必要だ。

主要データ

  • 運輸業・郵便業の就業者数:353万人(e-Stat「労働力調査」、2026年4月時点)
  • 営業用トラック輸送トン数:204,468千トン(e-Stat「自動車輸送統計」、2025年12月時点)
  • 自動車運転者の時間外労働の上限(特別条項):年960時間(厚生労働省「改善基準告示」、2024年4月1日施行)

Excelの配車表が崩れる瞬間——現場でよくある失敗から入る

月曜の朝、運行管理者が配車表を開いたら、土曜に入った追加便が反映されておらず、いすゞフォワードの2台が同じ荷主に重複配車されていた——こういう事態が中小運送会社では珍しくなく、原因を追うと、Excelファイルが共有フォルダに複数バージョン存在し、誰かが金曜夕方に別ファイルで修正したものが本番ファイルに取り込まれていなかった、というパターンが多い。

配車管理の失敗は単なる「うっかりミス」ではなく、システムの善し悪し以前に情報の一元化ができていない構造の問題だと捉えたほうが実態に近いため、個人の注意力だけで再発防止を図っても、担当者や時間帯が変わるたびに同じ混乱が別の形で持ち上がりやすい。

Excelは万能ではない。だが、正しい手順と運用ルールを持てば10〜50台規模の運送会社でも配車管理は十分に体系化できるため、この記事では配車管理の全体像から各ステップの実務作業、さらに現場で使える応用のコツまでを順に整理していく。

配車管理を知る前と後——Before/Afterで見る変化

配車管理の体系化を知らない状態(Before)では、帰り便の確保が属人化していたり、傭車を出す判断が「感覚」で行われたりするため、実車率が週によって大きくブレるだけでなく、荷主からの急ぎの追加便を口頭で受けたあと翌日の配車表に反映し忘れるといったミスまで重なり、現場の手戻りが増えていく。

  • 帰り便の確保が属人化しており、ベテランドライバーが休むと帰り便が空車回送になる
  • 傭車を出す判断が「感覚」で行われ、実車率が週によって大きくブレる
  • 荷主からの急ぎの追加便を口頭で受けて、翌日の配車表に反映し忘れる
  • デジタコ(デジタル式運行記録計)のデータと配車実績が一致せず、労務管理が後手に回る

一方で、体系化した後(After)では、1週間先までの配車計画が可視化されて傭車を使うべきタイミングが事前に分かるのみならず、帰り便の組み合わせや追加便の承認ルート、実車率・拘束時間・燃料サーチャージの試算までが一連の流れとして確認できるため、判断の速さと精度の両方が揃いやすくなる。

  • 1週間先までの配車計画が可視化され、傭車を使うべきタイミングが事前に分かる
  • 帰り便の組み合わせが配車表に組み込まれ、空車回送が減る
  • 追加便は所定のルートで記録・承認されるため、反映漏れが起きにくい
  • 実車率・拘束時間・燃料サーチャージの試算が一連の流れで確認できる

ここで起きる変化は、高額なシステムを入れた会社だけの話ではなく、手順と情報の流れを先に整えた会社で着実に現れるものであり、ツール選定より前に運用の骨格を固める必要がある。

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配車管理の全体像——5つのフェーズで押さえる

配車管理は「受注→計画→割り当て→実行→評価」の5フェーズで動き、それぞれの役割を図解的に整理すると、作業の順番だけでなく、どの段階で何を判断し、どこで情報を受け渡すかまで見えてくるため、現場で起きる漏れや重複を工程単位で把握しやすくなる。

  1. フェーズ1:受注・需要把握——荷主からの出荷依頼・スポット便の受付、翌週の予定確認
  2. フェーズ2:運行計画の立案——車両・ドライバーのアサイン、ルート設計、帰り便の検討
  3. フェーズ3:車両・ドライバーの割り当て——改善基準告示上の拘束時間チェック、傭車の出し入れ判断
  4. フェーズ4:当日の運行管理——点呼・出発確認、突発対応(車両トラブル・荷主変更)、進捗把握
  5. フェーズ5:実績評価・改善——実車率・空車回送・燃料サーチャージ実績の振り返り

この5フェーズを意識せずに配車管理を始めると、フェーズ2と3の境界が曖昧になって「計画を立てたつもりで実は割り当て漏れがある」という状態に陥りやすく、当日になってから不足車両や拘束時間の問題が噴き出すため、全体の流れを先に把握してから各作業へ入るほうが無理が少ない。

フェーズ1:受注・需要把握——「翌週の予定表」だけでは足りない理由

傭車を出すかどうかを「翌週の予定表」だけで管理している運行管理者は、たいてい実車率が伸びにくく、荷主の納品サイクルと帰り便の組み合わせを同時に見なければ正確な需要量は読めないため、見えている件数だけで判断すると、表面上は埋まっているように見える週でも配車の精度にばらつきが出やすい。

受注段階で確認すべき情報は次の4点だ。

  • 出発地・到着地・納品日時(時間指定の有無)
  • 貨物の種類・積載量(ウイングボディか平ボディか、冷蔵対応が必要かどうか)
  • 荷役条件(附帯業務の有無:パレット積み・横持ち・荷降ろし補助等)
  • 帰り便の可能性(荷主の取引先が帰り方向に荷物を持っているか)

附帯業務の有無は見落とされやすく、教科書的な配車計画では「A地点からB地点への輸送時間」だけで所要時間を計算しがちだが、実際の現場では荷降ろし後のパレット整理・伝票処理・荷主の担当者待ちが重なって計画より大幅に時間がかかることがあり、そのズレが積み重なると改善基準告示が定める拘束時間の管理にも影響が及ぶ。

拘束時間の上限や例外規定は現場条件で変わる。個別の判断は社会保険労務士への確認を前提にしてほしい。

需要把握のツールとして、最低限「週次の受注一覧シート」と「荷主別の曜日パターン表」を用意し、荷主ごとに出荷が多い曜日・少ない曜日を把握しておくだけでも、週の前半に配車が集中するのか、それとも案件が分散するのかを事前に読み取りやすくなる。

フェーズ2:運行計画の立案——ルート設計と帰り便の組み方

運行計画の核心は、帰り便をゼロから探すのではなく、計画段階で組み込むことにあり、往路の案件を確定させてから復路を後追いで探す運用では、空車回送の発生を減らしたくても手遅れになりやすく、採算の悪化を当日判断で埋め合わせる場面が増えてしまう。

たとえば、関越自動車道を使って関東から北関東方面に荷物を届ける定期便があるとするが、この帰り便として北関東の農産物集荷や工場出荷の輸送を組み合わせられるかという視点を計画段階に入れれば、空車回送のコストが下がる一方で、実運送の採算をどこで確保するかという見通しも立てやすくなる。

ルート設計で確認すべき要素を整理する。

  • 走行ルートと所要時間:高速道路の利用区間、ETC各種割引制度(深夜・休日・平日朝夕等)の組み合わせを運行計画に反映する。高速料金は車種・距離・時間帯で変動するため、NEXCO各社の料金検索で個別ルートを事前に確認しておく
  • 積載効率:1台あたりの積載量に対して実際の貨物量がどの程度か(実車率)を計画段階で試算する
  • 多重下請けの有無:元請けから配車を受ける場合、実運送を担う自社ドライバーの拘束時間が元請けのスケジュールに引きずられていないかを確認する

実務上は、運行計画書を当日分だけで終わらせず翌日・翌々日分まで前倒しで作成する習慣があると、突発対応が起きたときでも差し替え候補を比較しやすくなり、計画が当日朝にしか存在しない会社に比べて、車両トラブルや急な欠勤が出た際の立て直しに余裕が生まれる。

フェーズ3:車両・ドライバーの割り当て——傭車判断の基準を持つ

ドライバーの割り当てで最初に確認するのは、改善基準告示上の労働時間管理であり、2024年4月から適用された上限規制により、自動車運転者の時間外労働の上限は年960時間(厚生労働省「改善基準告示」、2024年4月1日施行)となっているため、この数字を超える配車は法令違反に直結する。

ただし、拘束時間の計算方法や例外規定には現場ごとの条件がある。具体的な運用は社会保険労務士に確認することを前提にしてほしい。

ドライバー職の有効求人倍率は全産業平均を大きく上回る水準が続いており、採用難が慢性化しているため、最新の倍率は厚生労働省「一般職業紹介状況」で確認できるものの、少なくとも現場感覚としては「人を増やして配車を組む」だけでは回らず、今いるドライバーの労働時間を適切に管理しながら、どの案件を自社便で持ち、どこで傭車を使うかを決める基準が欠かせない。

傭車を出す判断の基準を作るとすれば、次の3条件が重なった時だ。

  • 自社ドライバーの拘束時間が告示の上限に近づいている
  • 翌週の受注量が自社保有台数の処理能力を超えている
  • 帰り便の貨物が確保できており、傭車のコストを運賃で吸収できる

傭車を頻繁に使っているにもかかわらず実車率が低い場合は、傭車のコストが収益を圧迫している可能性が高く、この状態が続くなら、傭車の使い方だけでなく、そもそもの運行計画の組み方や受注の受け方まで含めて見直したほうがよい。

傭車は「溢れた仕事をさばく手段」として場当たり的に使うより、繁閑差や拘束時間の偏りをならすための調整弁として位置づけたほうが運用に筋が通りやすく、後者として扱えていない会社では、フェーズ2の計画精度に課題が残っていることが少なくない。

フェーズ4:当日の運行管理——突発対応を減らす仕組みの作り方

当日の運行管理で最も時間を取られるのは突発対応であり、車両トラブル・渋滞による遅延・荷主からの急ぎ追加といった事象は完全にゼロにはできないが、どの情報が誰に集まり、どの順番で判断するかを前もって決めておけば、慌ただしい時間帯でも対応の遅れを抑えやすい。

当日の運行管理に必要な情報を「見える化」するための最低限のツールは以下の3点だ。

  • デジタコのリアルタイムデータ:デジタル式運行記録計(デジタコ)の動態情報を使えば、どの車両が今どこにいるか、予定時刻に対して遅れているかを把握できる。紙の運行記録計では当日中に状況を把握できない
  • 当日の配車一覧表:ドライバー名・車両番号・積み地・降ろし地・時間が一覧で見えるシート。Excelで作る場合は、誰が見ても5秒以内に状況を把握できるレイアウトにする
  • 連絡ルートの明確化:荷主からの変更連絡が運行管理者ではなくドライバーの携帯に直接入ってくる運用は情報が分断される。連絡は必ず運行管理者を通すルールを明文化する

全日本トラック協会の調査でも、運行管理の情報共有の遅れが事故・遅延の一因として指摘されており、当日の情報をどこまで一か所に集約できるかで、同じトラブルが起きても現場の混乱の大きさにはかなり差が出ることが見て取れる。

フェーズ5:実績評価——実車率と燃料サーチャージを振り返る

配車管理の最後のフェーズは「振り返り」だが、日々の対応に追われる現場ほどここが省略されやすく、評価の工程が抜けると計画と実績のズレが翌週以降の配車に反映されないまま残るため、忙しい会社ほど意識して時間を確保したほうが改善の手がかりを拾いやすい。

振り返りで最低限確認すべき指標は3つだ。

  • 実車率:走行距離のうち貨物を積んで走った距離の割合。空車回送が多い路線・曜日を特定する
  • 燃料サーチャージの試算:軽油価格は週次で変動するため、契約時と実際の燃料費がどれだけ乖離しているかを定期的に確認する。最新の全国平均価格や燃料サーチャージの試算は燃料サーチャージ計算ツール(/tools/fuel-surcharge/)を使って自社の数字に置き換えて確認してほしい
  • 拘束時間の実績:デジタコのデータと点呼記録を照合し、計画と実績のズレが大きいドライバー・路線を洗い出す

週1回、30分でも振り返りの時間を確保するかどうかで3ヶ月後の配車精度には差が出てきて、見直しを後回しにした会社では、同じミスや同じ非効率が担当者や案件を変えながら残り続ける傾向がある。

配車管理に必要な道具と前提条件

配車管理を始めるにあたって必要な「道具」と「前提条件」を整理し、SaaSを導入しなくても始められる構成を基本にすることで、現場の負担を過度に増やさずに運用を立ち上げやすくなり、定着の段階で無理が出にくい。

必須の道具

  • Excelの週次配車表:縦軸にドライバー名・車両番号、横軸に曜日・時間帯。1週間を1シートで管理する。ファイルは必ず1つに絞り、更新のたびに日付付きで上書き保存するルールを設ける
  • 荷主別の受注記録シート:荷主名・出発地・到着地・重量・時間指定・附帯業務の有無を記録する。月単位で蓄積すると傾向分析に使える
  • デジタコ(デジタル式運行記録計):貨物自動車運送事業法上の義務対象車両では設置が求められる。運行実績の把握と改善基準告示対応の両面で不可欠だ
  • アルコールチェッカー:点呼での使用が義務化されている。記録は紙またはデジタルで保管する

前提条件

  • 運行管理者の選任:貨物自動車運送事業法に基づき、事業所ごとに選任が必要。国家資格の取得が必要であり、運行管理者試験センターが実施する試験に合格することが条件になる
  • 改善基準告示の理解:配車を組む際の時間管理の基礎となる。2024年4月から適用された新しい基準に従って運行計画を組むことが法令上の前提だ
  • 標準的運賃の把握:国土交通省が告示する「標準的な運賃」を参考に、運賃交渉の際の基準として活用する。値下げ要求を受けた際の根拠にもなる

現場で応用するコツ——中小運送会社が見落としやすい3点

1. 配車表の「更新ルール」を文書化する

配車表のトラブルの9割は「誰がいつ更新したか分からない」状態から起きるため、更新権限を持つ人間を1〜2名に絞るだけでなく、変更があった場合は必ず変更理由・変更者・変更時刻を記録する欄を設け、Excelのセルのコメント機能も使いながら履歴を残せるようにしておくと、後から原因を追う作業がかなり楽になる。

2. 帰り便の「候補リスト」を常に持つ

空車回送が多い路線がある場合は、その帰り方向の荷主候補をリスト化しておき、元請けの宅配事業者や特別積合の大手が扱う路線と自社の配送エリアが重なる部分を確認しながら、協力輸送や混載の可能性を平時から検討しておくと、急に帰り便が必要になった場面でも連絡先探しから始めずに済む。

3. 月次の実車率レポートを社長に見せる

配車管理の改善は現場だけで完結するものではなく、実車率・傭車費用・空車回送距離を月次でレポート化して経営者に可視化することで、車両の増減・路線の見直し・運賃交渉の判断材料になり、「現場が忙しいのに利益が出ない」という状態の背景まで共有しやすくなる。

よく「配車管理はベテランの勘でやるものだ」と言われるが、それは「記録する仕組みがない」という前提を見落としており、勘は記録の積み重ねから育つ一方で、記録がなければベテランが退職した瞬間に判断の根拠まで一緒に失われてしまう。

配車管理を「次のステップ」に進める判断基準

現状の配車管理が以下の状態になっていたら、体系化のサインだと受け止め、問題が表面化してから慌てて対処するのではなく、まだ回っているように見える段階で運用を整え始めたほうが、現場への負担を小さく抑えやすい。

  • ドライバーが10名を超えてから、配車ミスの頻度が月に複数回になっている
  • 傭車費用が増えているのに実車率が改善しない
  • デジタコのデータを配車管理に活かせていない
  • 運行管理者が休むと翌日の配車が組めない属人化状態になっている

e-Stat「自動車輸送統計」によると、営業用トラックの輸送トン数は2025年12月時点で204,468千トンに達しており、輸送需要は一定水準を維持している一方で、ドライバー不足(運輸業・郵便業の就業者数は2026年4月時点で353万人:e-Stat「労働力調査」)という制約もあるため、限られた人員と車両をどう配分するかが中小運送会社の収益と安定運行を左右する。

配車管理の体系化は大きな投資を必要としないため、まず週次配車表の更新ルールを決め、帰り便の候補リストを作り、月次の実車率レポートを回し始めるだけでも、半年後には現場で見える数字と判断の質に確かな差が生まれてくる。

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