庸車代の適正化は、庸車先の選定基準・契約フレーム・燃料サーチャージの明文化・支払条件の設定で実現する。

主要データ

  • 軽油小売価格(全国平均):158.8円/L(資源エネルギー庁 石油製品価格調査、2026年6月1日時点)
  • 運輸業・郵便業の就業者数:353万人(総務省統計局 労働力調査、2026年4月時点)
  • 営業用トラック輸送トン数:204,468千トン(国土交通省 自動車輸送統計調査、2025年12月時点)

庸車を出すたびに赤字が続く――失敗パターンの本質

午前9時、神奈川県内で30台規模の一般貨物運送業を営む運行管理者が荷主から追加オーダーの電話を受け、自社保有車は昨日から西日本への長距離便で稼働中であり手配可能な車両は残っていないため、ここで庸車を出すかどうかを判断する必要が出てくるが、このとき「とりあえず出せる先に連絡して、金額も合わせて後で見積もり」という方針で進めると、運行が終わってから赤字が判明する。

庸車代で失敗する現場の多くは、運行前に運賃と原価を対比していない。元請けからの運賃交渉が終わらない段階で庸車先に依頼を出し、走った後に差額を確認する流れだ。こうした運用が繰り返されると、実運送を担う庸車先には適正な対価が払えないため関係が長続きせず、同じ業者から再び受けてもらえなくなり、やむなく新規の庸車先を探し続ける悪循環に陥る。

庸車代の適正化とは、運賃と原価を運行前に透明化し、赤字を出さずに継続的な協力関係を構築することを指す。燃料費・高速料金・人件費・附帯業務の費用をどこまで含めるかを明文化し、契約書レベルで合意するプロセスが不可欠となっている。教科書では「庸車先と事前に見積もり」と書かれているが、実際の現場では納期が優先されるため、運賃確定前に庸車を動かす場面が多く、荷主との交渉が後回しになって庸車先への依頼だけが先行しやすい。

庸車代の内訳――何が含まれ、何が含まれないのか

庸車代は大きく分けて「運送の対価」と「附帯業務の対価」で構成される。運送の対価には、空車回送費・燃料費・高速料金・人件費・車両償却費・保険料などが入る。附帯業務の対価には、横持ち作業・荷役作業・荷待ち時間・荷卸し時間などが含まれるが、問題になるのは、元請けが荷主に請求する運賃明細と庸車先に支払う代金明細の項目がずれたまま運用される場合である。

たとえば、荷主からの運賃には「車建て」で固定額が設定されているが、庸車先に支払う際は「距離制」で計算する。この場合、空車回送の距離がかさむ案件では庸車代が運賃を上回る一方で、逆に帰り便が確保できる案件では差益が出るため、この差をあらかじめ試算せずに庸車を出すと、運行ごとに利益が乱高下する。

燃料費の扱いも見落とせない。資源エネルギー庁「石油製品価格調査」(2026年6月1日時点)によると、軽油小売価格は全国平均で158.8円/Lだった。契約時と運行時で価格が乖離した場合に燃料サーチャージをどう反映するかで庸車代の透明性は変わり、契約書に燃料価格の基準値と調整方式を定めておかないと、燃料価格上昇局面で庸車先が採算割れを起こして次回以降の協力を得にくくなる。全日本トラック協会「経営分析報告書(令和4年度決算版)」によると、営業用トラック運送事業者の外注費比率は約36%に達しており、庸車代を含む外注コストが経営に占める割合は年々高まっている。

附帯業務の費用化が遅れる理由

附帯業務のうち、横持ち・荷役・荷待ちは荷主に請求する運賃明細に含まれていない場合が多い。荷主企業の社内規定で「車建て運賃には荷役を含む」と定められており、元請けから庸車先に同じ条件で依頼すると、庸車先は荷役費を持ち出しで負担する形になるため、この構造が定着すると利益率は圧迫され、長期的には協力を打ち切られる。

国土交通省が告示した「標準的な運賃」(2020年施行)では、運賃と附帯業務を明確に区分する枠組みが示されている。しかし実務では、荷主との既存契約を改定する作業が追いつかず、附帯業務の費用化が遅れているのが実態だ。庸車先に支払う代金の内訳を明文化する前提として、まず元請けが荷主との契約書で附帯業務の項目を立てる必要があり、国土交通省「標準的な運賃の届出・適用状況に関するフォローアップ調査」(2023年3月時点)では、標準的な運賃の届出事業者数は約3.7万者に達したものの、実際の運賃改定交渉や附帯業務の明文化は事業者ごとに進捗が異なるため、現場での浸透にはなお時間を要している。

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庸車先を選ぶ判断基準――車両・実績・信頼関係

庸車先の選定で最も重要なのは「車両の適合性」だ。冷凍貨物を運ぶ案件で平ボディの庸車を手配すれば荷物が傷み、ウイングボディが指定されている案件で平ボディを手配すれば荷卸しに時間がかかって附帯業務の費用も膨らむため、車種・車型・保冷仕様・ゲート装備の有無を契約前に確認することが大前提となる。

次に重要なのが「過去の運行実績」だ。初めて依頼する庸車先の場合、運送事業者台帳の写しを取り寄せ、事業許可番号・保有車両数・保険加入状況を確認する。事故歴や行政処分歴は公開情報として国土交通省の事業者検索システムで照会でき、照会結果を踏まえたうえで、リスクが高い先との契約は見送る判断が求められる。

三つ目が「信頼関係の有無」だ。同じ庸車先に継続的に依頼すると、車両の手配調整がスムーズになり、緊急案件への対応力も上がる。一方で、単発の安値依頼だけを繰り返すと庸車先から優先順位を下げられるため、結果として繁忙期に手配がつかず、荷主からの案件を断る事態に陥る。信頼関係は、適正な庸車代の支払いのみならず、早期の代金決済によっても積み上がっていく。

多重下請けを避ける理由

庸車先がさらに別の運送会社へ再委託する「多重下請け」は、運賃の中抜きを生む。元請けが庸車先Aに支払う代金のうち、実運送を担うBは7割しか受け取れない場合、Bの利益率は極端に低くなる。Bの車両が老朽化し、整備不良で運行が止まれば、元請けも荷主も損害を被る。貨物自動車運送事業法では、実運送を行う者に適正な対価を支払う責務が元請けに課されているため、多重下請けを防ぐには、契約書に「再委託の禁止」または「再委託する場合の事前承認」を明記する必要がある。

正しい手順――庸車代を適正化する5ステップ

Step 1: 荷主との運賃交渉で附帯業務を明文化する

庸車を出す前提として、元請けが荷主に請求する運賃明細を整理する。車建て運賃・附帯業務料・燃料サーチャージの3本立てで項目を分け、契約書に反映する。附帯業務には荷待ち時間・荷役時間・横持ち回数を含める。荷主企業の社内規定で附帯業務が運賃に含まれている場合は、規定の改定交渉から始める。

ここで時間をかけることが、後の庸車代の透明性を担保する。荷主との契約書に附帯業務の項目が無い状態で庸車先に依頼すると、庸車先との契約書にも項目が立たず、費用負担の所在が曖昧になるため、結果として庸車先が持ち出しで負担し、次回以降の協力が得られなくなる。

Step 2: 庸車先との契約書で運賃と附帯業務を区分する

庸車先との契約書には、車種・車型・保冷仕様・運賃・附帯業務料・燃料サーチャージ・支払条件・再委託の可否を明記する。運賃は距離制または車建て制で設定し、どちらを採用するかは案件の性質で判断する。距離制は空車回送が短い定期便に向き、車建て制は往復が確定している専属便に向くため、契約条件は案件ごとの収支構造に合わせて設計する必要がある。

附帯業務料については、荷待ち時間・荷役時間・横持ち回数の実績に応じて計算する方式を定め、単価と計算基準を契約書に明記する。計算基準は荷主との契約内容に準じて設定し、庸車先と事前に合意する。

Step 3: 燃料サーチャージの基準値と調整方式を決める

燃料サーチャージについては、資源エネルギー庁が公表する軽油小売価格を基準値とし、月次で調整する方式を契約書に明記する。基準値からの変動幅と運賃への反映時期を定めておく。基準値を下回る場合は運賃を減額し、上回る場合は増額する。変動幅の設定は、荷主との契約条件や燃料費比率を踏まえて調整する。

調整方式を定めずに燃料サーチャージを口頭で協議すると、価格上昇局面で庸車先が採算割れを主張し、運行の継続を断られる。契約書に調整方式を明記しておけば、燃料価格が乱高下しても運賃の見直しが機械的に行われるため、属人的な交渉に振り回されにくくなり、協力関係も維持しやすくなる。

Step 4: 支払条件を短縮し、資金繰りを安定させる

支払条件は、締め日から入金までの期間を指す。庸車先への支払いが翌々月末になる場合、庸車先の資金繰りは圧迫される。元請けが荷主から入金を受ける前に庸車先への支払いが発生するため、元請けの資金繰りも厳しくなるが、これを避けるには荷主との契約書で支払条件を短縮交渉し、庸車先への支払いを早める余地をつくる。

荷主からの入金サイトと庸車先への支払いサイトの調整により、元請けの手元資金を確保しつつ、庸車先への支払いを早める体制を整える。こうした調整で、庸車先の経営が安定し、継続的な協力が得られやすくなる。

Step 5: 運行後に原価と運賃を対比し、次回の条件見直しに反映する

運行が終わった後、実際の原価(燃料費・高速料金・人件費・附帯業務費)と元請けが受け取る運賃を対比する。差額がマイナスになる案件は、次回の契約更新で運賃の増額交渉を行う。差額がプラスになる案件は、協力関係の維持を優先しながら、庸車先との条件を定期的に見直すことで、一時的な利益に依存しない運用へつなげられる。

この対比作業を毎月行うと、赤字案件と黒字案件が可視化され、どの路線・荷種で庸車を出すべきかの判断材料が蓄積される。運行管理者が「今回は出そう」「今回はやめよう」と感覚で決めるのではなく、過去の原価データに基づいて判断できるようになる。

前提条件――庸車を出す前に整備すべきもの

庸車を出す前に整備すべきものは、契約書・車両台帳・保険証券の3点だ。契約書には運賃・附帯業務料・燃料サーチャージ・支払条件・再委託の可否を明記する。車両台帳には車種・車型・保冷仕様・ゲート装備の有無・車検満了日・自賠責保険・任意保険の加入状況を記載する。保険証券には対人・対物・車両の補償内容を確認する。

これらの書類が揃っていない状態で庸車を出すと、事故発生時に補償が受けられず、元請けが損害を負う。庸車先の任意保険が切れていた場合、元請けの保険で補償する義務が生じる可能性があるため、契約前に保険証券の写しを取り寄せ、補償内容を確認することがリスク回避の第一歩になる。

デジタコの有無と運行記録の共有

庸車先がデジタコを搭載していない場合、運行記録の共有が難しくなる。改善基準告示では、拘束時間・休息期間・運転時間の記録が義務付けられている。庸車先がアナログタコグラフで記録している場合、チャート紙の回収と保管が必要になる一方で、デジタコ搭載車両であれば、運行データをクラウド経由で元請けが確認できる。

運行記録の共有は、労務管理の透明性を高めるだけでなく、庸車先が過労運転をしていないかを確認する手段にもなる。元請けが庸車先の運行記録を確認せずに依頼を続けると、庸車先が改善基準告示違反を起こし、元請けも連帯責任を問われるリスクがあるため、契約書に「運行記録の提出」を義務化する条項を入れておくことが、リスク管理の一環になる。

プロと初心者の差が出るポイント――帰り便の確保と空車回送の削減

庸車を出すかどうかの判断で、プロが見るのは「帰り便の有無」だ。往路だけで庸車代が運賃を上回る案件でも、復路で貨物を確保できれば差益が出る。逆に往復とも空車回送になる案件は、庸車代が膨らみ赤字が確定する。初心者は往路の運賃だけで判断し、復路の貨物確保を後回しにするため、結果として空車回送が続き、庸車代が積み上がる。

帰り便の確保には、荷主企業の物流部門と事前に調整する。荷主企業が別の拠点への輸送ニーズを持っている場合、往路の荷卸し先から復路の積み地までの距離が短ければ、帰り便を組み込める。こうした調整を運行前に行うことで、空車回送を削減し、庸車代を抑えられる。

実車率を上げる運行計画の立て方

実車率は「総走行距離のうち貨物を積んでいる距離の割合」を指す。庸車を出す際、実車率が低い案件は赤字リスクが高まるため、空車回送の距離を短縮し、復路の貨物確保を事前に検討する必要がある。実車率を上げるには、往路の荷卸し地点と復路の積み地点を近づけ、空車回送の距離を短縮する。さらに、中継輸送を組み込んで往復とも貨物を積む運行計画を立てる。

中継輸送は、長距離便を往路と復路で分割し、中継地点で運転手を交代する方式だ。たとえば関東から九州への長距離便を、関東から中部まで運転手Aが担当し、中部から九州まで運転手Bが担当する。運転手Aは中部で貨物を降ろし、別の貨物を積んで関東へ戻る。運転手Bは九州で貨物を降ろし、別の貨物を積んで中部へ戻る。この方式で往復とも実車になり、実車率が上がる。

国土交通省「自動車輸送統計調査」(2025年12月時点)によると、営業用トラックの輸送トン数は204,468千トンだった。輸送量が高水準で推移する中、実車率を上げる運行計画が庸車代の適正化に直結しており、国土交通省「自動車輸送統計年報(令和4年度)」によると営業用トラックの実車率は約40%にとどまっているため、空車回送の削減は個社の工夫だけではなく業界全体の課題として捉える必要がある。

現場での判断基準――庸車を出すべき案件と断るべき案件

庸車を出すべき案件の判断では、元請けが荷主から受け取る運賃から、庸車先に支払う代金と自社の管理費を差し引いた額がプラスになるかを事前に試算する。管理費には、運行管理者の人件費・事務所の固定費・保険料の一部が含まれる。試算の結果、差額がプラスになる案件を選ぶ。

断るべき案件としては、運賃と原価の差額がマイナスになる案件のほか、庸車先が多重下請けを前提としている案件、庸車先の保険加入状況が不明な案件、庸車先の車両が老朽化している案件が挙げられる。こうした案件を受けると、事故発生時に元請けが損害を負い、荷主からの信頼も失うため、短期の売上よりも継続的な取引維持を優先した選別が必要になる。

緊急案件の判断――赤字でも受けるべきか

緊急案件で赤字が確定していても、荷主との長期契約を維持するために受ける判断が必要な場合がある。この判断では、荷主からの年間取引額と、今回の赤字額を比較して行う。年間取引額が大きく、今回の赤字が年間利益に与える影響が限定的な場合は、長期的な関係維持を優先して受ける判断が合理的だ。逆に、年間取引額が小さく、今回の赤字が年間利益に大きな影響を与える場合は、断る判断が合理的だ。なお、具体的な比率は自社の経営状況・荷主との契約条件により異なるため、事前に社内で基準を定めておく必要がある。

緊急案件を受ける場合でも、庸車先への代金は運行前に確定させ、支払条件を明文化する。口頭で「後で精算」と伝えて運行を開始すると、運行後に庸車先から追加費用を請求されて赤字が拡大するため、契約書に緊急案件の加算料金を明記しておけば、庸車先も元請けも納得しやすい形で運行を完了できる。加算料金の設定は、庸車先との事前合意であり、同時に荷主への説明でもある。

まず庸車先との契約書を整備する――次にやるべきこと

庸車代の適正化は、庸車先との契約書を整備することから始まる。契約書には運賃・附帯業務料・燃料サーチャージ・支払条件・再委託の可否を明記する。次に、荷主との契約書で附帯業務を明文化し、運賃と附帯業務を区分する。この2つの契約書が整備されると、運行前に運賃と原価を対比できるため、赤字案件を避けやすくなる。

運行後は、実際の原価と運賃を対比し、差額をExcelで記録する。記録が蓄積されると、どの路線・荷種で庸車を出すべきかが可視化される。庸車を出す判断は、感覚ではなく過去のデータに基づいて行うべきであり、その積み重ねが、繁忙期でも慌てずに条件を見極める運用基盤として機能していく。

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