冷凍食品の配送では温度逸脱によるクレームと記録の欠測が巡回指導で最初に指摘される。品温管理の手順とHACCPに沿った記録体制の構築が現場の生命線になる。
主要データ
- 運輸業・郵便業の月間平均就業時間:172.0時間(2026年4月時点、e-Stat 毎月勤労統計調査)
- 軽油小売価格(全国平均):158.8円/L(2026年6月1日、資源エネルギー庁 石油製品価格調査)
冷凍食品の配送でよくある失敗とその背景
冷凍食品の配送で最初に詰まりやすいのは荷積み時点の品温確認と予冷時間の管理であり、現場では荷主指定の庫内温度を達成した時点で「冷凍車の準備完了」と判断する運送会社が多いのだが、庫内温度と積載する製品の実品温は別物として扱わなければならない。
2026年7月現在、資源エネルギー庁が公表する軽油小売価格は全国平均で158.8円/Lとなり、1週間前の158.5円/Lから0.3円上昇しているため、冷凍機を継続稼働させる冷凍車では燃費悪化の影響を受けやすく、燃料費の比重が高い業態ほど価格変動を運賃構成に反映する仕組みを荷主と取り決めておきたいところである。
現場では荷主から「冷凍車の庫内温度が基準を下回っていた」とクレームを受けることがあり、その背景には荷積み直前の予冷時間が不足し、庫内壁面や床面が十分に冷えないまま荷を積んだ結果、製品の一部が解凍に近い状態で納品先に到着する流れがある。さらに、荷主が求める「冷凍帯」は食品衛生法のHACCP制度化以降、自治体の監視指導が強化されている一方で、温度記録の欠測も改善指導の対象となりうるため、温度そのものだけでなく記録の連続性まで含めて管理しなければならない。農林水産省の「冷凍食品をめぐる状況について」によれば、国内の冷凍食品生産量は近年150万トン前後で推移しており、コールドチェーンを担う運送事業者への品質管理要求が高まっていることが見て取れる。
冷凍食品配送の前提条件と必要な道具
厚生労働省の「食品衛生法等の一部を改正する法律」により、2021年6月から原則すべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理の実施を義務付けられており、冷凍食品配送でも車両設備だけでなく記録体制まで含めて運用を整えることが前提条件となっているため、車があれば始められる仕事という理解では実務に乗りにくい。
車両設備と温度記録装置
冷凍食品の配送には、冷凍機を搭載した冷蔵・冷凍車が必要になる。車両ブランドはいすゞフォワード、日野プロフィア、三菱ふそうスーパーグレートなどがあるが、冷凍車はベース車両にリーファユニット(冷凍機)とFRP断熱パネルを組み合わせた架装仕様となっている。
温度記録装置は、HACCP に沿った衛生管理の運用フェーズで事実上必須の装備になっており、2021年6月のHACCP制度化以降は食品物流・倉庫事業者を含む原則すべての食品等事業者が対象となったため、自治体の監視指導でも温度記録の有無だけでなく、どの機器で、どの間隔で、どう保管しているかまで確認される。
温度ロガー(データロガー)を庫内に設置し、自動で記録する運用が主流だ。機器の選定は荷主が指定する場合と、運送会社が自社で選定する場合に分かれる。荷主が食品製造業や大手卸の場合、温度記録のフォーマットや記録間隔を荷主の品質管理基準に合わせる必要が出てくる。
運行計画と荷主との取り決め事項
冷凍食品の配送では、運行計画の段階で以下の3点を荷主と詰める必要があり、第一に確認すべきなのは温度帯の定義と許容範囲であって、冷凍帯の定義は製品の種類や荷主の品質基準により異なるため、具体的な温度範囲は荷主の品質基準書を確認し、契約書または配送仕様書に明記したうえで、運行管理者と乗務員に周知しなければならない。
第二に、予冷時間と荷待ち時間の取り扱いである。改正物流効率化法の判断基準では、温度管理を要する貨物の積載効率向上や荷待ち時間短縮の取組が論点化されており、冷蔵・冷凍庫の予冷時間や積込待機の短縮が荷主・物流事業者の協議事項となる。実務では、荷積み開始前に冷凍車の庫内を目標温度まで冷却する予冷時間を拘束時間にどう算入するかが争点になりやすく、拘束時間の上限は厚生労働省の改善基準告示で定められているため、予冷開始から荷役完了までを一連の作業として扱う場合は労働時間の管理が欠かせない。最終判断は社労士に相談する前提だが、運行表に予冷時間を明示しておく運用は実務上かなり有効であり、国土交通省の「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」でも、荷待ち時間の削減が物流効率化の重点施策として位置づけられている。
第三に、温度逸脱時の対応フローだ。配送中に庫内温度が許容範囲を外れた場合、荷主への連絡タイミングと製品の取り扱い(廃棄・返品・温度復旧後の再配送等)を事前に決めておく。温度逸脱の原因が冷凍機の故障か、扉の開閉回数の増加か、外気温の影響かで対応が変わるため、現場では温度ロガーの記録データを荷主に提出し、製品の品質判定を荷主側で行う流れが一般的となっている。
Step 1: 配送前の車両点検と予冷手順
冷凍機の始業点検項目
配送開始前に、冷凍機の始業点検を実施する。点検項目は車両ごとのメーカー保守マニュアルに記載された手順に従う。代表的な項目は、冷媒ガスの漏れ確認、ベルトの張り具合、冷却ファンの動作音、コンプレッサーオイルの量になる。
冷凍機の異常は初期段階で音や振動に現れることが多く、冷却能力が落ちた状態で配送を続けると庫内温度が設定値まで下がらず製品の品質を損なうため、点検で異常を発見した場合は配車担当に報告し、代替車両の手配または整備工場への入庫を判断する流れを、乗務員任せにせず標準化しておく必要がある。
予冷時間の確保と温度記録の開始
荷積み開始前に、冷凍車の庫内を目標温度まで冷却する予冷を行う。予冷時間は車両仕様・荷種・外気温で変動するため、荷主との取り決めに基づき設定する。実務では、庫内の壁面と床面の温度が均一になるまで冷却するのが基本であり、庫内温度計で庫内の複数箇所を測定し、全箇所が目標温度に達したことを確認してから荷積みに入る。
温度記録は予冷開始時点から開始する。温度ロガーのスタートボタンを押し、記録開始時刻と車両番号、乗務員名を記録用紙に記入する。記録の欠測は監査時の指摘リスクとなりうるため、記録開始のタイミングを運行前点検のチェックリストに組み込むことで作業の抜け漏れを防ぎやすくなり、予冷をしていたつもりでも記録が空白だったという事態を避けやすくなる。
Step 2: 荷積み時の温度管理と製品の配置
製品の実品温確認と荷主立会い
荷積み時には、冷凍食品の実品温を確認する。庫内温度が目標値に達していても、製品自体の温度が高い場合、配送中に庫内温度が上昇する原因になる。実品温の確認は、荷主の品質管理担当者が立ち会い、温度計(非接触式または挿入式)で測定する流れが一般的だ。
製品の実品温が荷主の基準を満たさない場合は荷積みを中断し、製品を再冷却する必要があり、この判断自体は荷主側で行うのだが、運送会社側も実品温の測定結果を記録して配送記録に添付しなければならない。温度記録の欠測や測定手順の不備は、HACCP に沿った衛生管理の運用フェーズで自治体の監視指導が強化されていることもあって見過ごされにくく、記録方法を荷主と事前に合意しておくことが後の説明負担を軽くする。
庫内の積載配置と冷気の循環
冷凍車の庫内では、冷気の循環を妨げない積載配置が求められる。冷凍機の吹出口をふさぐ積み方をすると、庫内の温度ムラが生じ、製品の一部が解凍に近い状態になる。積載の基本は、吹出口から一定の距離を空け、パレット同士の間に隙間を確保する配置になる。
実務上のポイントとして、庫内の前方(冷凍機に近い位置)と後方(扉に近い位置)で温度差が出やすく、多品種の製品を混載する場合の配置ルールは製品ごとの温度要求や荷主の品質基準により異なるため、自社判断での配置変更は避け、事前に荷主と協議したうえで配置ルールを明文化しておくほうが、現場判断のばらつきを抑えやすい。
Step 3: 配送中の温度監視と異常時の対応
温度ロガーの確認頻度と記録の保管
配送中は、温度ロガーの表示を定期的に確認する。確認の頻度はHACCP の運用ルールおよび所管自治体の指導内容に従って定める。自動記録型のロガーを使用する場合、乗務員が走行中にリアルタイムで温度を確認できる車種もある。
温度記録の保管期間は、食品衛生法および自治体の指導内容により異なるが、記録データは電子媒体または紙媒体で保管し、荷主からの要請に応じて提出できる状態にしておく必要があり、記録の改ざん防止のために温度ロガーのデータを自動的にクラウドに転送する機器を導入する運送会社もあるため、保管方法は導入機器の仕様と社内運用を合わせて設計したい。
温度逸脱が発生した場合の初動
配送中に庫内温度が許容範囲を外れた場合、まず冷凍機の動作状況を確認する。冷凍機が停止している場合は、エンジンの回転数やベルトの破損を疑う。冷凍機が動作しているのに温度が上がる場合は、扉の開閉回数の増加や外気温の影響、積載量の過多が原因になる。
温度逸脱を確認した時点で、荷主の品質管理担当者に連絡する。連絡内容は、逸脱が発生した時刻、現在の庫内温度、冷凍機の動作状況、製品の状態(外観・触感)になる。荷主の判断で配送を中断し、製品を返品または廃棄する場合があるため、現場では温度逸脱の記録と写真を残し、後の原因分析に備える運用まで含めて初動を標準化しておくと、責任範囲の整理もしやすい。
Step 4: 荷卸し時の温度確認と受領証の取り交わし
納品先での温度測定と受領証への記載
納品先に到着したら、扉を開ける前に温度ロガーの記録を確認する。配送中の温度推移が荷主の基準内に収まっているかを確認し、逸脱がある場合は納品先の担当者に報告する。納品先が大手卸や小売チェーンの場合、納品先でも独自に温度測定を行う流れがある。
受領証には、配送時の庫内温度と温度記録の有無を記載する欄を設ける運用を推奨しており、受領証に温度記録の参照先(例:温度ロガーのシリアル番号、記録ファイル名)を記載しておけば、後日の問い合わせが発生した場合でも確認経路を明確に保ちやすく、納品先との認識違いも減らしやすい。
食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度への対応
2025年6月から、食品用の器具・容器包装は厚生労働省が定めるポジティブリスト掲載物質のみ使用可能になり、輸入品も対象であるため、コールドチェーンで使用する保冷容器・包材も該当し、配送で使用する保冷シートや断熱パネル、パレットラップが食品に直接接触する場合は制度の対象になる可能性がある。
実務では、荷主から「ポジティブリスト適合証明書」の提出を求められるケースが出てきている。運送会社が自社で保冷資材を調達する場合、資材メーカーに適合証明書の有無を確認し、荷主に提出する流れになる。証明書の取得が間に合わない場合は、荷主側で指定する資材を使用する契約に切り替える選択肢も検討対象となり、資材調達の自由度と手続負担のどちらを優先するかが論点になる。
よくある失敗と対処法
失敗事例1: 予冷不足による製品の温度上昇
東京湾岸エリアの冷凍倉庫から関東圏内のスーパーへの配送で、予冷時間を短縮した結果、納品先で製品の一部が解凍状態になった事例がある。冷凍車の庫内温度計は目標値を示していたが、庫内の床面と壁面の温度が十分に下がっていなかった。製品を積載した直後から庫内温度が上昇し、配送中に許容範囲を超えた。
対処法として、予冷の完了判定を「庫内温度計が目標値を示した時点」から「庫内の複数箇所(前方・中央・後方の床面と壁面)がすべて目標値に達した時点」に変更し、予冷時間は車両仕様と外気温で変動するため夏季と冬季で異なる目安時間を設定したうえで、予冷の開始時刻と完了時刻を運行記録に記載し、荷主との協議資料として残す運用が有効となる。
失敗事例2: 温度記録の欠測による監査指摘
HACCP制度化以降、自治体の巡回指導で温度記録の欠測が指摘されるケースが増えており、現場では温度ロガーのバッテリー切れや記録開始の操作ミスが原因で配送中の温度記録が空白になる事例があるため、記録の欠測が続く場合は改善指導の対象となる可能性がある(具体的な期間・判定基準は所管自治体の通知を確認すること)。
対処法として、温度ロガーのバッテリー残量を運行前点検のチェック項目に追加し、記録開始の操作手順をマニュアル化して乗務員全員に周知するとともに、記録データは配送完了後に事務所のPCまたはクラウドに転送して欠測の有無を配車担当が確認する体制を構築し、欠測が発覚した場合は配送時の状況を記録用紙に補足記載して荷主に報告する流れを整える。
失敗事例3: 扉の開閉回数増加による温度上昇
複数の納品先を巡回する配送ルートでは、扉の開閉回数が増えると庫内温度が上昇しやすく、扉を開けるたびに外気が流入して庫内の冷気が逃げるため、納品先が10箇所を超える場合は最後の納品先で庫内温度が許容範囲を超えるリスクが高まる。
対処法として、配送ルートを「温度管理が厳しい製品を優先配送するルート」と「扉の開閉回数を最小化するルート」に分け、前者は納品先を3〜5箇所に絞って扉の開閉を最小限に抑え、後者は納品先を増やす一方で温度許容幅が広い製品に限定するなど、荷主の配送指示と調整しながら温度逸脱のリスクを共有してルート分割を提案する進め方が考えられる。
安全上の注意点
冷凍機の稼働中は換気を確保する
冷凍機はエンジンの動力でコンプレッサーを駆動するため、エンジンをかけた状態で長時間停車する場面が出てくる。屋内駐車場や倉庫内で冷凍機を稼働させる場合、排気ガスが滞留し一酸化炭素中毒のリスクが生じるため、換気が不十分な場所ではエンジンを停止し、外部電源で動作するスタンバイ冷凍機(外部電源式のリーファユニット)を使用する選択肢も検討したい。
庫内作業時の低温障害と保護具の着用
冷凍車の庫内で長時間作業する場合、低温による凍傷や体温低下のリスクがある。荷役作業で庫内に入る場合は、防寒着・手袋・安全靴を着用する。庫内の温度条件により作業負荷が異なるため、作業時間の設定と休憩の頻度は、現場の温度環境と作業者の体調を踏まえて判断し、必要に応じて産業医や労務管理担当者に相談する運用が現実的である。
冷凍機の故障時は速やかに荷主と連絡を取る
配送中に冷凍機が故障した場合、庫内温度は急速に上昇するため、故障を確認した時点で荷主に連絡し、製品の保管方法(近隣の冷凍倉庫への一時保管、代替車両への積替え等)を協議する必要があり、原因が冷媒ガスの漏れやベルトの破断である場合は路上での修理が困難なため、最寄りの整備工場または営業所に戻って整備を行う判断となる。
次にやるべきこと
温度記録のデジタル化と自動化
温度記録の手書き運用は、記録ミスや欠測のリスクが高い。温度ロガーとクラウドを連携させ、記録データを自動転送する仕組みを導入する運送会社が増えている。記録の自動化により、配車担当がリアルタイムで庫内温度を監視できる体制が整い、異常が発生した場合には配車担当から乗務員に連絡して初動対応を指示する流れまで組み立てやすくなる。
荷主との定期協議で配送条件を見直す
冷凍食品の配送では、荷主の品質基準と運送会社の実務能力の間にズレが生じる場面があり、教科書では「冷凍帯は−18℃以下」とされる一方で、実際の現場では製品ごとに−20℃以下、−25℃以下、−30℃以下と細かく指定されるため、製品の種類(魚介類・肉類・調理済み冷凍食品)ごとの温度要求を前提に条件をすり合わせる必要がある。
荷主との定期協議では、温度逸脱の発生頻度、冷凍機の故障履歴、配送ルートの見直し提案を議題に挙げる。協議の記録を残し、配送条件の変更履歴を管理する。条件の変更があった場合は、運行管理者と乗務員に周知し、配送マニュアルを更新することが欠かせず、ここを曖昧にすると現場だけが旧条件のまま動くことになりやすい。
燃料費の変動を運賃構成に反映する仕組みの構築
冷凍車は定温輸送の性質上、冷凍機を稼働させ続けるため燃費は平ボディ車よりも悪化し、2026年7月現在の軽油小売価格は全国平均で158.8円/Lとなって1週間前から0.3円上昇しているため、燃料費の上昇が続く局面では運賃構成に燃料サーチャージを組み込む交渉を荷主と行う選択肢が現実的になる。
燃料サーチャージの算定方法は、国土交通省の「標準的な運賃」や業界団体のガイドラインを参考にする。ただし、具体的な運賃水準や改定のタイミングは荷主との個別契約になるため、最終判断は自社の経営状況と荷主の予算を踏まえて行う。燃料費の変動幅が大きい場合は、四半期ごとに運賃を見直す契約を提案する方法もある。
冷凍食品の配送は、温度管理と記録の正確性が荷主との信頼関係を左右し、HACCPの運用フェーズに入り自治体の監視指導が強化されている現在では、温度記録の欠測や手順の不備が改善指導のリスクに直結するため、予冷手順・温度記録・異常時の連絡フローを標準化し、乗務員全員が同じ水準で対応できる体制を構築することが、現場で優先して進めるべき実務対応となる。
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