海上運送法は内航・外航の旅客・貨物輸送を規律する基幹法だが、内陸の運送会社が知らずに違反リスクを負うケースが現場では起きている。

主要データ

  • 運輸業・郵便業の月間平均就業時間:172.0時間(2026年4月時点 / e-Stat 政府統計ポータル)

「うちは陸運だから関係ない」——その思い込みが違反を招く

横浜港本牧や東京港大井ふ頭でトレーラーを引き取り、荷主の指示でコンテナを丸ごと港頭倉庫から工場に運ぶ仕事を日常的にこなしていても、海上運送法はフェリー会社や船会社の話だと受け止め、中小運送会社の運行管理者が自社とは無縁だと判断してしまう場面は珍しくない。

だが実際の現場では、荷主から「当社は海上運送法に基づく届出をしているので、運賃表はこれに準拠してほしい」と書面を示されて読み方に迷うことがあり、あるいは内航フェリーを使ったトレーラー輸送で船会社の約款に「海上運送法第×条に基づく」という文言が並んでいても、その意味を確かめないまま押印してしまうことがある。

問題の核心は制度をまったく知らないことだけではなく、自分には関係ないという先入観が情報収集の入口を閉ざしてしまう点にあり、海上運送法は内陸の運送会社にとっても契約条件や責任分界、元請けとの交渉を通じて間接的に実務と交差するため、最低限の輪郭を押さえておかないと不利な立場に置かれやすい。

海上運送法の基本構造——何を規制しているのか

海上運送法(昭和24年法律第187号)は、日本の海上輸送秩序を維持するために国土交通省が所管する法律であり、対象は大きく二つに分かれ、一つは旅客定期航路事業、もう一つは貨物定期航路事業および貨物不定期航路事業を含む事業区分として整理されている。

教科書では海運事業者が守る法律として説明されることが多いが、現場では内陸の運送事業者も無関係ではなく、内航フェリーを使ったトレーラー輸送、コンテナ海上輸送の一部区間を担う場合の約款確認、荷主から提示される輸送条件書類の理解、さらに複合一貫輸送における責任区分の確認といった場面で具体的な接点が生じる。

法律の条文構成を大まかに整理すると以下の通りになる。

  • 事業の許可・届出制度:旅客定期航路事業は国土交通大臣の許可が必要。貨物定期航路事業は届出制。不定期事業は届出が原則
  • 運賃・料金の届出:旅客定期航路事業者は運賃・料金を定め、国土交通大臣に届け出る義務がある
  • 安全管理の義務:船舶安全法や船員法と連動した安全確保義務
  • 外航規制との区分:外航海運については外航海運に関する別の制度体系が重なる場合があり、国土交通省maritime局の所管となる

内陸の運送会社が直接この法律の許可・届出義務を負うことは通常ないが、フェリーを使ったモーダルシフトを運行計画に組み込む場合や、複合一貫輸送の元請けとして海上区間を外注する場合には、契約相手である船会社やフェリー会社がどの制度のもとで運賃や約款を定めているのかを理解しておく必要が出てくる。

内航フェリーとトレーラー輸送——現場で交差する具体的ポイント

モーダルシフトの文脈で最も実務と交差しやすいのが内航フェリーの利用であり、特に関東から北海道・九州・沖縄方面への長距離幹線では、トレーラーをフェリーに乗せる「RO-RO輸送(ロールオン・ロールオフ)」を組み合わせた運行計画が、2024年問題以降に急速に現場へ浸透している。

労働基準法に基づく時間外労働の上限規制が2024年4月1日から自動車運転業務に適用され、トラックドライバーの時間外労働が年960時間以内に制限され、あわせて拘束時間・休息期間等を定める改正改善基準告示も同時期に適用されているため(出典:厚生労働省)、長距離の一部区間をフェリーに切り替え、乗船中をドライバーの休息期間として活用する運行設計が、制度対応と現場運用の両面から検討されるようになっている。

こうした運行を組み立てるとき、運行管理者が最低限確認すべき点は次のとおりだ。

Step 1:フェリー会社の約款と海上運送法上の位置づけを確認する

フェリー会社は旅客定期航路事業者または内航不定期航路事業者として海上運送法に基づく届出・許可のもとで運賃や約款を設定しているため、フェリー運賃や積載条件の交渉は陸上の傭車と同じ感覚で自由に値引きできるものではなく、届出ベースの公示運賃を起点に話が進むことを知らないまま交渉に入ると、最初の前提から食い違いが生じやすい。

Step 2:荷物事故発生時の責任区分を事前に整理する

陸上区間の荷物事故は貨物自動車運送事業法および約款の規定で対応するが、海上区間では商法の運送編(海商関係)と海上運送法、さらに船荷証券の規定が絡むため、複合一貫輸送を自社が元請けとして引き受ける場合には、荷主への賠償責任の範囲とフェリー会社・船会社との責任分担を契約書で明確にしておかなければ、事故時に損傷区間が特定できず自社が全体を抱え込むおそれがある。

Step 3:運行記録(デジタコ・運行記録計)とフェリー乗船時間の記録を対応させる

改善基準告示に基づく運転時間・休息期間の記録は、フェリー乗船中の扱いについて厚生労働省の通達等で一定の整理がされているものの、具体的な取り扱い、たとえば乗船中の時間が休息期間として認められる条件などは一次資料を直接確認する必要があり、デジタコの記録区分を乗船前後で適切に設定しておかないと、後から記録を見返した際に実態を説明しにくくなる。

Step 4:モーダルシフトの補助制度と海上運送法の関係を把握する

国土交通省はモーダルシフト促進のための補助・支援事業を展開しているが、その対象となる海上輸送は海上運送法の枠組みのなかで認められた航路・事業者の利用を前提としており、補助制度の具体的な要件や金額は年度ごとに変わるため、申請前には最新の公募要領まで確認しておきたい。

外航海運との接点——輸出入貨物を扱う場合の注意点

海上運送法が直接規制するのは日本国内の海上運送事業だが、輸出入貨物を扱う場面では外航海運に関する別の制度や約款も重なり、陸上集配を担う中小運送会社であっても、どの書類がどの法制度を背景にしているのかを整理しておかないと、契約条件の読み違いにつながりやすい。

フォワーダー(利用運送事業者)との関係

輸出入貨物の海上輸送を手配するフォワーダー(貨物利用運送事業者)は貨物利用運送事業法に基づく登録・許可を受けた事業者であり、海上運送法とは別の法律で動いているが、陸上運送会社がその下請けとして港頭の集配を行う場合でも、フォワーダーから渡される書類(B/L:船荷証券)や輸送条件の記載には海上運送法や国際条約(ヘーグ・ヴィスビー・ルール等)を背景にした考え方が反映されているため、最低限の背景知識は持っておいたほうが実務で戸惑いにくい。

神戸港・横浜港本牧でのコンテナ引き取り

神戸港や横浜港本牧でコンテナを引き取る際は、ターミナルオペレーターの規則と船会社の約款の両方が絡み、荷下ろし後のデマレージ(コンテナ延滞料)やディテンション(コンテナ返却遅延料)は海上運送法ではなく船会社の約款ベースで発生するため、このコストが内陸の運送会社に転嫁される可能性も見据えながら、元請けとの契約書に負担の所在を明記しておく必要がある。

改正物流効率化法との交差点——2026年以降の制度環境

改正物流効率化法の第二段階施行(2026年4月1日)により、一定規模以上の物流事業者・荷主に対する規制が強化され、特定荷主には中長期計画の作成・定期報告などが義務化されている一方で、この流れのなかではモーダルシフト(海上・鉄道への転換)が積載効率向上や荷待ち削減の手段として制度面からも後押しされている。

そのため、海上運送法の枠組みで運航するフェリー・内航船との連携は、単なる輸送手段の選択肢ではなく改正物流効率化法への対応策としても位置づけられ、荷主から「計画書に内航フェリー利用の比率を入れてほしい」と求められる場面が増えるにつれ、運送会社側でも海上区間を前提にした実務設計が必要になっている。

e-Stat(政府統計ポータル)によると、2026年4月時点の運輸業・郵便業における月間平均就業時間は172.0時間であり、この数字は長距離ドライバーの労働時間管理がなお厳しい環境にあることを示しているため、フェリーを活用した運行設計は制度対応のためだけでなく、実際の稼働を組み直す手段としても重みを増している。

運送会社が海上運送法を「読む」必要がある3つの場面

海上運送法の条文を一から読み込む必要まではないが、以下の3場面では関連条文や約款の確認を怠らないことが重要であり、とりわけ複合輸送では陸上の常識だけで進めると責任分界や運賃根拠の理解がずれやすいため、事前確認の質がその後の実務対応を左右する。

  • 内航フェリーを運行計画に組み込むとき:フェリー会社の届出運賃・運航スケジュールの変更リスク・欠航時の代替措置を事前に確認する。欠航時にどちらが損害を負うかは約款次第で、貨物自動車運送事業法上の運送遅延責任と混同しないよう注意する
  • 複合一貫輸送の元請けとして海上区間を外注するとき:荷主への一貫責任をどこまで負うか、海上区間の免責条項(天候・自然災害等)が陸上区間の約款と整合しているかを確認する
  • 荷主・元請けが海上運送法を根拠とする書類を提示してきたとき:「海上運送法第○条に基づく」という文言が契約書や約款に出てきたとき、その条文が運賃届出・安全管理・事業許可のいずれに関するものかを把握したうえで押印する

よくある前提のズレ——制度上の建前と現場の実態

教科書では「内航海運は海上運送法、陸上輸送は貨物自動車運送事業法と完全に分離している」と整理されるが、複合一貫輸送が広がった現場ではこの境界線が常に明瞭とは限らず、荷主がドア・ツー・ドアの輸送を一本の契約として扱いたがる一方で、港の現場では法律ごとの切れ目が意識されにくいという事情がある。

このズレを放置したまま口頭ベースで仕事を受けると、事故・遅延・損害発生時に「陸と海のどちらが責任を持つのか」という水掛け論になりやすく、中小運送会社の社長や運行管理者に求められるのは法律をすべて暗記することではなく、どの区間に何の法律が適用されるかという地図を持ち、不明点を行政書士や弁護士に確認するタイミングを逃さないことである。

標準的運賃・Gマーク・改正法——海上運送法と周辺制度の接続

2024年3月22日に施行された改正貨物自動車運送事業法に基づく新たな標準的運賃の告示では、運賃水準の引き上げと荷役の対価等の加算が盛り込まれた(参考値:国土交通省告示)が、この標準的運賃はあくまで陸上の貨物自動車運送に適用されるものであり、海上区間と混在する複合輸送では海上区間の運賃は船会社の届出運賃、陸上区間の運賃は標準的運賃を参照するというように根拠が分かれるため、荷主への説明では区間ごとの差を明確に示す必要がある。

Gマーク(安全性優良事業所認定)は全日本トラック協会が認定する制度で、陸上の貨物自動車運送事業者が対象となる一方、海上運送法上の認定制度とは別であるため、「Gマークを持っているから海上区間も問題ない」とは言えず、商談でアピールする際には陸上輸送の安全管理水準を示す制度であることを正確に伝えるべきだろう。

燃料コストについては、長距離輸送でフェリーを活用する場合と純粋な陸上直行便を比べたときの燃料費の変動は、自社の実燃費・走行距離・フェリー運賃を組み合わせて試算する必要がある。最新の燃料サーチャージの試算は燃料サーチャージ計算ツールを活用してほしい。

現場での判断基準——次に動くべきタイミング

海上運送法が実務に影響を及ぼすのは、以下のサインが出た時点であり、その場で慌てて確認を始めると契約や運行計画の前提整理が追いつかないことが多いため、関係書類の読み方や相談先の確保は先に済ませておくのが望ましい。

  • 荷主または元請けから、内航フェリー・RO-RO輸送を含む運行計画の提案が届いたとき——フェリー会社の約款・欠航時の補償条件・運賃の届出根拠を確認するタイミング
  • 複合一貫輸送の元請けとして海上区間を含む契約書への押印を求められたとき——陸上区間と海上区間の責任分界点・免責条項を行政書士または弁護士に確認してから押印する
  • 改正物流効率化法への対応として荷主からモーダルシフト比率の報告を求められたとき——フェリー利用実績の記録方法と、海上運送法に基づく事業者との契約書の整備を先に行う
  • 港頭倉庫でのデマレージ請求が繰り返し発生しているとき——船会社の約款と自社・荷主の契約書を照合し、負担の所在を書面で明確にする

「陸運だから海上運送法は他人事」という感覚が通用しにくくなっているのが2026年の実務であり、制度の輪郭を把握しつつ、どの段階で専門家への確認が必要になるかを早めに判断できれば、複合輸送の現場で不利な条件を抱え込む可能性を下げやすくなるため、解釈や適用範囲に疑問が生じた場合は国土交通省の一次情報を確認したうえで行政書士・弁護士への相談を優先したい。