TMS(輸送管理システム)は配車・運賃・実車率を一元管理し、中小運送会社の収益構造を根本から変える経営ツールだ。

主要データ

  • 運輸業・郵便業の就業者数:345万人(総務省「労働力調査」産業別就業者数、2026年7月時点)

配車表がExcelのままである限り、TMSを入れても意味がない

教科書的な説明ではTMS(Transportation Management System=輸送管理システム)は「配車を自動化するシステム」とされるが、実際の現場では自動化の前に片づけるべき論点が多く、導入効果は前提となる業務整理ができているかどうかで大きく変わってくる。

問題になるのは、配車担当者の頭の中にしかない暗黙の積み合わせルールであり、実車率を誰も正確に把握していないまま走らせている傭車であり、帰り便を取れているかどうかが翌日の運行開始まで見えない空車回送の多さでもあるため、こうした損失はExcelの配車表だけでは十分に可視化できない。

結論からいえば、TMSは単なるExcelの代替ではない。見えていなかった損失を数字に置き換える仕組みであり、導入して初めて自社の実車率の低さや、附帯業務に使っていた時間の大きさが判明するケースも少なくない。

総務省「労働力調査」(2026年7月時点)によると、運輸業・郵便業の就業者数は345万人であり、直近の数ヶ月で減少傾向が続いているうえ、ドライバー職の有効求人倍率は全産業平均を大きく上回る水準が続いているため(厚生労働省「一般職業紹介状況」参照)、採用で不足を埋める発想だけでは立ち行きにくく、今いるドライバーと車両から最大の実車率を引き出す仕組みとしてTMSへの関心が高まっている。

TMSを導入する前に確認すべき「自社の状態」

TMS導入が失敗する最大の原因は、現状の業務フローが整理されないままシステムだけを先に入れてしまう点にあり、入力項目や運用ルールが固まっていない状態では現場が混乱し、経営側も効果測定の基準を持てないため、導入前には自社の状態を言語化しておく必要がある。

最低限そろえておくべき情報

  • 車両台数と車種の一覧:いすゞフォワード、日野プロフィア等、車種ごとの積載量・使用区間を把握しておく
  • 荷主ごとの運行パターン:定期便・スポット便の比率、積み地・降し地の組み合わせ
  • 現状の実車率:全車両の走行距離のうち、実際に荷物を積んで走っている距離の割合。これを把握できていない会社はTMSを入れても活用できない
  • 帰り便の取得状況:長距離便で帰り荷を確保できているかどうか
  • 運賃データの整備状況:荷主ごとの実運賃が帳票や請求書で追えるか
  • デジタコ(デジタル式運行記録計)の有無:デジタコが未導入の場合、TMSとの連携が限定的になる

必要な準備(ツール・体制)

  • 運行管理者が1名以上専任できること(兼務の場合はTMS運用に割ける時間を事前に確認する)
  • Excelで管理している配車データや運賃データを、CSV形式で書き出せる状態にしておく
  • ドライバーへのスマートフォン配布または車載端末の準備(TMSの種類によって異なる)
  • 荷主への事前説明:到着時刻のデータ共有を行う場合、荷主の同意が必要になることがある

採用・給与・経営の統計データをダッシュボードで見る →

TMS導入の手順:Step 1〜6

Step 1:自社の「損失地図」をつくる

TMS導入の最初のステップはシステム選定ではなく、自社のどこで利益が削られているのかを把握することであり、「空車回送距離」「実車率」「附帯業務の時間」という3つを現状値として記録しておくと、導入後の改善幅を比較しやすくなる。

空車回送とは、荷物を積んでいない状態で車両を走らせることを指す。とくに長距離輸送で帰り便が取れていない場合、東名高速を空荷で戻るコストは運行全体の収益を強く圧迫するため、「なんとなく多い」で済ませず、実際の走行距離データで数値化する姿勢が出発点になる。

方法自体は難しくなく、直近1〜3ヶ月のデジタコデータか運転日報をもとに1便ごとの実走距離と空車走行距離を集計すればよいが、この地道な作業が後にTMS導入後のビフォー・アフターを判断する基準となるため、単なる下準備として片づけずに残しておきたい。

Step 2:TMSの機能要件を絞り込む

TMS製品は機能の幅が広く、配車最適化・運賃管理・請求書発行・ドライバー管理・安全管理まで網羅するものもあれば、配車と実績管理に特化したものもあるが、中小運送会社が陥りやすいのは「機能が多いほど良い」という発想に引っ張られて、自社に必要な軸を見失うことだ。

機能要件を絞り込む順序は以下の通りだ。

  1. 配車計画の効率化が最優先か、運賃・請求管理が最優先かを決める:多重下請けで実運送のみを担う会社は、配車最適化よりも運賃・原価の見える化が先になる場合が多い
  2. デジタコとの連携が必要かどうかを確認する:既存のデジタコとTMSが連携できない場合、データ入力が二重になる
  3. 荷主へのデータ共有機能が必要かどうかを確認する:到着予定時刻(ETA)をリアルタイムで荷主に通知する機能は、荷待ち削減に直結する

Step 3:複数ベンダーのデモを受け、判断軸を統一する

複数のTMSベンダーからデモを受ける際は、比較軸がばらつくと結論を出しにくくなるため、操作性・連携可否・サポート・費用・データ出力といった項目を同一フォーマットで並べた比較表を先に作り、誰が見ても同じ基準で評価できる状態にしておくことが欠かせない。

  • 配車計画の作成にかかる操作ステップ数(複雑さの指標)
  • デジタコとの連携可否と対応機種
  • 導入後のサポート体制(電話・チャット・訪問の区別)
  • 初期費用・月額費用の内訳(カスタマイズ費用が別途発生するかどうか)
  • データのエクスポート形式(自社でExcel加工できるか)

最新の補助金情報はベンダー任せにするより、自社で中小企業庁が所管する補助金制度や国土交通省の物流効率化関連支援策を確認したほうが整理しやすく、補助金検索ツールでIT導入補助金等の活用可否を把握しておけば交渉の前提をそろえやすいが、具体的な補助額や条件は年度ごとに動くため、最終確認は中小企業庁の公式公募要領で行うのが基本となる。

Step 4:試験運用フェーズを設計する

全車両・全路線を一気にTMSへ移行すると、操作の不慣れと運用ルールの未整備が同時に噴き出しやすいため、まずは特定の荷主や特定の路線に対象を絞って試験運用を行い、現場のドライバーと運行管理者が慣れる期間を意図的に設けたほうが進めやすい。

試験運用の対象として向いているのは、定期便であり、かつ積み地・降し地が固定されているルートである。東京港大井ふ頭からの定期便のように出発時刻や運行条件が比較的そろっている案件は、TMSへの入力負荷が抑えやすく、効果測定もしやすい傾向が見て取れる。

試験運用期間は、現場の習熟と問題点の洗い出しを両立させるため、少なくとも数週間から1ヶ月程度は確保したい。この間に発生した操作上のつまずきや例外対応を記録し、ベンダーへのフィードバックに回しておくと、その後の全社展開での手戻りを減らしやすい。

Step 5:全社展開と帳票の統合

試験運用の結果を踏まえて全社展開に進む際、重要になるのは帳票の統合であり、TMS上のデータと従来の運転日報・点呼記録簿・運行指示書が並行して残る二重管理の状態を放置すると、現場の入力負荷だけが増え、システムの定着を妨げる要因になりやすい。

国土交通省の貨物自動車運送事業法に基づく帳票要件(運転日報、乗務等の記録)はTMSで電子的に管理できる場合が多いが、点呼記録簿等の法定帳票については運行管理者が適切な形式で保管する義務がある。帳票テンプレートの整備や電子化の確認には、帳票テンプレート集が参照できる。最終的な法令解釈は行政書士や所轄の運輸支局に確認する。

Step 6:KPIを設定して継続的に改善する

TMS導入は入れて終わるものではなく、導入後に何を追うかが曖昧だとシステムが形骸化しやすいため、実車率や帰り便取得率だけでなく、荷待ち時間や附帯業務の所要時間まで含めて継続的に確認できる体制をつくる必要がある。

  • 実車率:TMS導入前後で比較し、改善幅を月次で確認する
  • 帰り便取得率:長距離便のうち帰り荷を確保できた便の割合
  • 傭車依頼件数:繁忙期の傭車コストがどう変化したか
  • 荷待ち時間の平均:ETAの精度向上が荷待ち削減につながっているかどうか
  • 附帯業務の所要時間:配車計画作成・請求書発行に費やしている時間の変化

現場でよくある失敗と対処

失敗1:導入直後にデータ入力が止まる

仮に20台規模の運送会社がTMSを導入した場合、最初の1〜2週間でドライバーがアプリ入力をしなくなる状況は起こりやすく、その背景には入力項目の多さだけでなく、説明が操作方法に偏り、「なぜ入力するのか」という目的共有が不足していたことがある。

対処の軸は、入力項目を絞ることと、入力によって何が変わるかを現場へ返すことにある。TMSが出力する実車率レポートを朝礼で共有し、空車回送が減った、帰り便が増えたといった変化をドライバー自身が実感できるようにすると、入力継続率は上がりやすい。

失敗2:配車最適化の提案を現場が無視する

TMSが提案する配車ルートと、ベテラン運行管理者の経験則がぶつかる場面は避けにくく、たとえばシステムは関越自動車道を使う案を出しても、その時間帯は渋滞しやすいという現場知識は即座に反映されないことがあるため、提案結果をそのまま唯一の正解として扱わない前提が必要になる。

教科書的にはシステムの最適解に従うとされるが、実際の現場ではシステムの提案をたたき台とし、運行管理者が最終判断を加える運用のほうが定着しやすい。TMSは情報提供の役割を担い、人が判断を引き受けるという分担を最初に明確にしておくと、運用の摩擦は抑えやすい。

失敗3:運賃データが整備されていないまま導入する

TMSの運賃・原価管理機能を使おうとして、初めて荷主ごとの実運賃が一覧化されていないことに気づくケースは珍しくなく、荷主別・車種別・区間別の運賃が担当者の頭の中や散在したExcelファイルに分かれている状態では、運賃マスタ登録だけで数週間を要することもある。

そのため、導入決定から切替までの期間には運賃データの整理を優先して進めておきたい。国土交通省が告示する「標準的な運賃」を参照軸にしながら、荷主別の実運賃を比較する作業も並行して行えば、TMS運用だけでなく、その後の運賃交渉にも使いやすい材料が残る。

tms物流における現場でよくある失敗と対処の様子

TMS導入で特に注意すべき3つの落とし穴

落とし穴1:多重下請け構造でのデータ断絶

実運送を担う下請け・孫請けの立場では、元請けとのTMSデータ連携が取れないケースが起こりやすく、元請けの宅配事業者や特別積合の大手が独自のTMSを持っていても、自社TMSとAPIで連携できるとは限らないため、導入時の期待値はあらかじめ調整しておく必要がある。

この場合は、TMS同士の完全連携を最初から目指すより、自社内のデータ整備に集中するほうが進めやすい。元請けからの指示を手入力する二度手間は残るとしても、自社の実車率・運賃・原価が見える状態になる意義は小さくない。

落とし穴2:燃料サーチャージへの対応

燃料サーチャージ(軽油価格の変動に応じて運賃に上乗せする仕組み)は、TMSの運賃管理機能と連動できる製品とそうでない製品があり、軽油価格が週次で動くなかで月次のサーチャージ額をどう更新するかは収支管理に直結するため、導入前に対応可否を確認しておきたい。最新の軽油価格と自社のサーチャージ試算は、燃料サーチャージ計算ツールを使って月次で確認する運用が現実的だ。

落とし穴3:拘束時間・労務管理との連動を設計しない

TMS導入の目的を配車効率化だけに絞ってしまうと、労働基準法に基づく時間外労働の上限規制(2024年4月1日から自動車運転業務に適用)や、改善基準告示が定める拘束時間・休息期間・運転時間との整合が後回しになり、結果として運用上の抜け漏れを招きやすい。

配車計画の段階で、ドライバーごとの累積拘束時間が改善基準告示の基準に近づいていないかをTMSがアラートできれば、法令対応の見落としは減らしやすい。この機能の有無は、TMS選定時の確認事項に加えておきたい。拘束時間・休息期間の具体的な上限と例外規定の解釈は、社会保険労務士への確認を前提とすること。

次にやるべきこと:「TMS導入準備度」の判断基準

以下の4つの状態がそろっているなら、TMSの導入検討フェーズに入る準備は進んでいると考えやすいが、逆にこの条件が曖昧なまま契約を急ぐと、導入後に運用設計が止まりやすいため、契約前の段階で自社の準備度を冷静に見極めることが欠かせない。

  • 現状の実車率を数字で把握している(または把握しようとしている)
  • 荷主ごとの実運賃が一覧化されている(またはその作業を始めている)
  • デジタコが主要車両に導入されている(または導入予定がある)
  • 運行管理者がTMSの運用に専念できる体制がある

逆に、実車率を誰も把握できておらず、運賃データがバラバラで、デジタコも未導入という状態でTMSを契約しても、活用の前に基盤整備で止まりやすい。

これはシステムの問題というより情報整備の問題であり、導入前の判断基準は「今日、全車両の実車率を計算できるか」に置くのが分かりやすく、もし計算できないなら、まずはその数字を出せる状態をつくることが先決で、その準備が整った時点ではじめてTMS導入の第一歩を踏み出しやすくなる。

この分野の統計データは「運送業のいまの数字」で、グラフとテーブルで一覧できます。